野の花診療所院長
徳永進・野の花診療所院長
2年間診療所で働いた臨床4年目のK君(看護師)が3月のお別れ会で語った。――自分は看護師として患者さんのことを正しく把握し、正しい看護をしなければならない、と思ってました。先輩や先生は、正しいって一人一人違う、場面によってもと言いました。右往左往しながら見つけていくしかないって。何のことか分かりませんでした――。
K君、続いて心に残った3人の患者さんを紹介した。1人は86歳の血液疾患末期のHさん。――「早う逝きたい、逝かせてほしい」と毎日言い、一刻もそばから離さなかった奥さんが「なら、早う逝きゃあええがあ」。10カ月後に亡くなったんですが、しっかりしていた奥さん、別人のように落ち込まれました、何日も。驚きました――。もう1人は大腸がんの全身転移の方で手術も化学療法も拒否、の人。――両足が腫れ、血便で貧血で、でも気持ちは朗らかなんです。奥さんは家事も介護もできない人。そこに訪問介護が入った時です。「俺のことはいい、アイツの介護頼む。ほんま助かる」。看護こそ大切と思ってましたが、日常生活を支える介護がどれほど大切かと知りました――。3番目はプロレス観戦を一緒にした16歳の脳腫瘍(しゅよう)の高校生のこと。――観戦の翌日、病室で「疲れた」と言うので「観戦、長かった?」と尋ねると、「5年間もこの病気で、もう疲れたー」と言われ、何も返せなかったです――。
締めくくりにこう語った。――「緩和ケアで大切なこと」と書いた紙を先輩に渡されました。三つあって、「mission(使命)」「passion(情熱)」「compassion(思いやり)」。新しい職場でも「思いやり」を大切に、と思います――。若い人はすがすがしい。皆ジーンときて拍手。そして4月が始まった。(野の花診療所院長)
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