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Thursday, April 28, 2022

イーロン・マスク氏によるツイッター買収は終わりの始まりか、あるいは何かの始まりなのか - ITmedia NEWS

 世界一の富豪であり30兆円をはるかに超える資産を保有するイーロン・マスク氏が、Twitterの株式を大量に取得していることが明らかになってから1カ月にも満たないが、その間にマスク氏はTwitterへの取締役就任を断り、代わりに買収を提案。ついには合意に至ったと発表された。

マスク氏による買収に合意したと伝える米Twitterの報道資料

 買収に関連しマスク氏はTwitterでいくつかの発言をしているが、同氏はこれまでも周囲の同調圧力に影響されることなく、常に自分の信条に沿って行動してきた。買収後もマスク氏は同様に行動するだろう。

 この買収により、Twitterはサービス開始当初のように自由な気風が生まれ、新しいサービスへと生まれ変わっていく可能性はある。一方で非難と憎悪が渦巻く場と化していき、影響力のあるユーザーがTwitterから離れていく未来も考えられる。

自由な発言の場としてのTwitter

 Twitterの取締役会は4月25日、1株あたり54.20ドル、総額ではおよそ44億ドルに達する金額で完全売却することを発表した。年内の完了を目指し、買収完了後は上場を廃止しプライベートカンパニーとなる。

 Twitter買収に関してマスク氏は「言論の自由は、民主主義がその役割を果たすための基礎であり、Twitterは人類の未来を議論するために不可欠なデジタル上の街広場だ」とツイートした。

 同氏はこれまでツイッターで思うがままに発言し、何度か問題を引き起こしてきたが、決して悪びれることはなかった。また、かねてより「Twitterはツイート内容を規制しすぎている」という主旨のツイートもしていた。

 扇動やヘイトなどを繰り返すアカウントが集まりやすい特性を鑑み、Twitterはアカウントの発言内容を監視してアカウント凍結を行う措置を行ってきた。米国の前大統領、ドナルド・トランプ氏のアカウントを「暴力行為をさらに扇動する恐れがある」として永久凍結したことも記憶に新しい。

永久凍結されたドナルド・トランプ前大統領のTwitterアカウント

 Twitterは基本的に自由な発言の場ではあるが、それ故に悪意を持った発信が行われやすい側面もあり、限度を超えた言動には厳しく対処している。政治的思想や宗教、性・人種差別問題などについて一貫して介入しない姿勢を示しているが、アカウント凍結の基準については常に議論がある。

 マスク氏の「言論の自由」がこの基準を緩めることにつながるとしたら、社会的弱者やマイノリティーへの攻撃、あるいは宗教や思想による対立が進むこともあるかもしれない。

小規模だが影響力が大きいTwitterの特殊な立ち位置

 さまざまな著名人や政治家、活動家などがアカウントを持ち、ニュースなどでも話題になることの多いTwitterだが、SNSとして捉えたときの規模は決して大きいわけではない。ユーザーはグローバルでおよそ3.3億人(2019年発表)。29億人を超える利用者がいる「Facebook」、20億人の「WhatsUp」、12億6000万人の「WeChat」と比べると、まさに桁違いに小さい。

Facebookには全世界で29億人ものユーザーがいる(21年Q4時点、出典はmeta)

 一方、全Twitterユーザーの13%以上が日本で登録されたアカウントのため、日本ではLINEに次ぐ規模である。グローバルのSNS市場から見える景色と、日本人の目線から見たTwitterは少し印象が異なるとはいえるだろう。

 ではグローバルでの影響力が小さいのかといえば、そんなことはない。Twitterは誰もがどんな立場であれ自由に発言できる場であり、発言のタイミングや内容次第で拡散する特性を持っているからだ。

 無名のユーザーでも他者へのコメントを通じて発信したり、トレンドとなっているハッシュタグで目立つことができるし、影響力を持つユーザーが興味をひかれた発言をリツイート、引用などをすれば瞬く間に“時の人”になることもある。Twitterのヘビーユーザーは、フォローしている相手からだけではなく、トレンドワードやツイート検索から「現在、バズっていること」を常に探し続けている。

 思い起こせばTwitterが日本で広がったのも、東日本大震災の際、被災地の生の声や写真が被災者自身から発信され、それを大手マスコミ以外の人たちが情報として伝えた点が大きい。目新しいコミュニケーション手段に驚き、興味を持った人も多かった。

政治思想や宗教などから制約を受けない言論空間

 一方でTwitterの特性は、本来なら聞き流されたり、あるいは社会的には無視されるような極端な意見や思想までも“可視化”してしまい、デマや陰謀論のようなものが広がるきっかけにもなった。通常なら見逃されてしまう弱い声を拾ったり、小さなつぶやきを参考意見として検索できる利点は、短所にもなり得るのだ。

 Twitter買収に際してマスク氏は「言論の自由は、民主主義がその役割を果たすための基礎であり、Twitterは人類の未来を議論するために不可欠なデジタル上の街広場だ」と発言した。

 Twitterを「井戸端会議」と評した人もいたが、誰もが広場に集まり、宗教や主義主張、立場や地位などに関係なく自由に発言する場であることは確かだろう。そんな井戸端会議をインターネットという巨大なネットワークで行えば、暴言を吐く者や一方的な非難を浴びせる者、人々を扇動したりする者も出てくる。中央集権的に発信内容を検閲するのではなく自由な場として存在させるとしたら、どのような形で秩序を生み出すのか。

 マスク氏自身、Twitter上で問題発言を繰り返しつつも反省の色はあまり見られない。自らの信じる理念についてまっすぐに偽りなく行動する一方、バランスを取って世渡りをしようといった意思はあまり感じられない。

 もっともマスク氏のパーソナリティがどうであれ、巨額の投資を無題にしないためには過激なまでの改革は行えないと考えるのが妥当だろう。EU(欧州連合)幹部のティエリー・ブルトン氏は4月26日、「マスク氏はデジタルサービス法(Digital Service Act)を熟知しているはずだ」とツイートした。

 デジタルサービス法ではEU域内でデジタルサービスの営業を行う場合、違法・有害コンテンツを取り扱ってはならないとしており、違反した場合は年間収益(利益ではない)の最大6%の罰金を支払わねばならない。

 具体的には、言論の自由、規則の透明性、ヘイトスピーチ、リベンジポルノ、嫌がらせなど人権侵害を中心に規則が定められているが、一方でTwitterにはそうした発言、情報発信も集まる。Twitterはそれらを規制しなければ、巨額の罰金を支払わねばならなくなる。

 加えていうなら、そうした一般ユーザーにとって有益にならないノイズが増えていけば、いずれ優良な情報発信者も、また情報を探して検索したり、特定発信者をフォローしてきた受け身のユーザーもTwitterを離れていくだろう。テスラやスペースXの経営でもそうであったように、最終的にマスク氏は現実的な解決策を見つけていくことになるはずだ。

 ただしマスク氏が本当の自由を求め、Twitterを根本的に改革するという可能性もゼロではないと思う。現在のTwitterでは、多数のアカウントを自由に使いこなす人もいる。他人が運営するアカウントも含め、各アカウントの相関性は他の人からほとんど分からず、多くの場合は発言の責任を追求されることもない。

 得られる自由と同じぐらい、ユーザーが発言に対する責任を負うと明確に示せるシステムを構築できるのなら、極めて難しいことではあるが、マスク氏のいう「自由な発言の場」へと生まれ変わることもできるかもしれない。

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