奈良の東大寺では3月12日の深夜(13日の午前1時半頃)に恒例の修二会の行のひとつ「お水取り」が行われます。回廊で振りまわす大きな松明の火の粉を浴びれば一年の厄除けとなり、この時に汲まれた水、御香水(おこうずい)を飲めば万病が治るといわれています。関西ではお水取りが終わらなければあたたかさはやってこない、と皆の口にのぼるとか。春を告げる行事といわれるゆえんですね。
蕨(わらび)、ゼンマイ、独活(うど)、タラの芽、と盛りだくさんの山菜が出そろうのもこの時季。特に早春の蕨は「早蕨(さわらび)」といい、春をさきがける象徴として『万葉集』にも詠われています。
「石走る(いはばしる) 垂水(たるみ)の上の さわらびの 萌え出づる春に なりにけるかも」
志貴皇子(しきのみこ)
豊かな雪解けの水、吹き出す若い緑の芽、春の生き生きとした情景が素直に歌となっています。新たな季節との出会いの喜びが時代を越えて心に響きます。
三月、弥生。めぐり会う新しい季節はもう目の前です。春を楽しむ心の準備そして身体の準備、もうできていますか。寒かった今年の冬から春へ、さあ一歩を踏み出しましょう。
参考:
『新編日本古典文学全集』小学館
『角川俳句大歳時記』角川学芸出版
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