勝者として名を告げられると、大の字にジャンプしていた。ボクシング女子で日本人初の金メダリストとなったフェザー級の入江聖奈(せいな)(20)は表彰式を待ちながら、何度も頰をつねった。「夢の中にいるよう」。母の本棚で見つけた少年漫画のヒーローにあこがれた少女は、13年間の努力の末、五輪のリングでまぎれもなく主人公になった。
まだ、抜けた前歯も生えそろっていない少女だった。小学2年の頃、両親に連れられ、鳥取県米子市のシュガーナックルボクシングジムに入門した。
《見ていてくれ‼ おれ強くなるよ‼》
きっかけは、漫画家、小山ゆうさん(73)の「がんばれ元気」(小学館)だった。ボクサーの父を亡くした少年、堀口元気が世界王者を目指して奮闘するストーリーに胸を熱くした。「私も!」。毎日、子供部屋で拳を振り回し、空想のリングに立った。
ジムではジャブとストレートをひたすら練習した。2年後、小4で挑んだ初試合は引き分け、号泣した。
「もう1回やる!」
ジムの会長で、日本ボクシング連盟の女子強化委員長を務める伊田武志さん(55)はその素質にほれ込んだ。「器用ではない。1日でできることを1週間、ときには1カ月もやり続けてできるようになる」
試合を重ねるごとに強くなった。所属する日体大の浅村雅則監督(56)は「五輪の最中も試合のたびに成長していた」と驚く。
五輪に挑む入江に「がんばれ聖奈」と記した似顔絵を贈った小山さんは「やったー! 大変な快挙です」とメッセージを寄せた。
大学いっぱいでボクシングはやめるつもりだ。休日を公園や緑地でカエル探しに費やすほどの「カエラー」(カエル愛好家)の一面もある。試合後の記者会見では卒業後は「カエル関連で就職できたらいいんですが、なかなか見つからない」と話した。
「5ミリくらい、歴史の扉を開けることができた」。決勝進出を決め、こう語っていたヒロインは一息に扉の先へと踏み出した。
「全開にしちゃったかな」。顔をほころばせた。
(本江希望)
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