バイデン次期米大統領。対中関係をどうするのか。
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「バイデンは中米競争を和らげようとするかもしれないが、表面的なものに過ぎず、政治分野での米中対立はむしろ激化する。大国間の戦争は起きないが、より不確実で不安な平和な時代が始まる」
バイデン次期政権下の米中関係をこう予測するのは、中国保守派の論客、閻学通・清華大学教授だ。トランプ政権が進めてきた「米中新冷戦」のリセットを期待する声とは逆に、対立と競争の時代が続くとみる。
「新冷戦思考」はリセットするが
バイデン氏は2020年末までに、外交・安保・通商分野の主な布陣を発表し、政権の性格もおぼろげながら見えてきた。多くの人の関心はやはり、世界中が振り回されてきた米中対立の行方にあるだろう。バイデン氏自身の発言と新布陣、米中識者の見方を中心に探ってみたい。
次期大統領は、米中関係を「敵対的、競争的であるが、協力的な側面もある」と表現し、歯切れが悪い。コロナ対策や気候変動問題では中国との協調と対話を進め、「米中新冷戦」思考をリセットするはずだ。
だが、だからと言ってオバマ政権時代の「対中関与政策」には戻らない。
就任後はまず、
- 新型コロナウイルス対策
- 分断された米社会の統一
を最優先課題に、国内の経済格差、黒人や移民差別の解消など内政を優先する。対中貿易戦争については、「制裁関税など懲罰的手段はとらない」とする一方、中国への制裁関税と「第1段階の貿易合意」に対し、「即座に動くつもりはない」と述べ、議会内に強い対中強硬姿勢に配慮するだろう。
同盟再構築重視の人事
国務長官候補に指名されたアントニー・ブリンケン前国務副長官。
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外交の柱になる国務長官候補には、アントニー・ブリンケン前国務副長官が、対中通商交渉の前面に立つ通商代表部(USTR)代表候補には、キャサリン・タイ下院法律顧問が指名された。
ブリンケン氏は、民主党の外交畑で30年のキャリアを積んできた「実利重視の現実主義者」。次期大統領が強調する「同盟国重視」も彼の受け売りとされる。対中関係については、「コンサルタント会社を設立し、アメリカ企業向けに中国市場に関するアドバイスをしてきた」(中国紙)。
彼は米中関係について、トランプ氏が「民主主義の後退」を招いたことで「我々は困難な状況に陥り、ロシアや中国などの独裁国家がその穴を突こうとしている」と述べ、中ロに対抗して同盟国の結束を主張している。
対中関係を進める上で、まず日本、韓国、ドイツなどトランプ政権下で揺らいだ同盟関係の再構築を先行するだろう。
「悪いシグナル」と中国学者
キャサリン・タイ氏は、議会承認されれば初のアジア出身USTR代表になる。台湾人の両親の下、アメリカで生まれ、イェール大とハーバード法科大学院で学んだ。
首都ワシントンの法律事務所や議会、政府でキャリアを重ねてきた超エリート。中国語を流ちょうに話し、中国の広州・中山大学で2年間、英語を教えた経験もある。「彼女は蒋介石側近の情報特務の親分の曾孫」という噂が一時台湾で駆け巡ったが、フェイクニュースだった。
2007年から14年までUSTRの中国担当法律顧問を務め、中国の知財権侵害のほか、農産品への輸出補助金や輸出規制を、世界貿易機関(WTO)協定違反として提訴した経験がある。
中国人民大学の時殷弘教授は香港紙に、「タイ指名は中米関係にとって否定的なシグナル」と語る。中国人の思考方法に通じているだけに、習近平政権にとっても手ごわいライバルになるだろう。
日米同盟の強化求める
次期政権の外交キーワードの「同盟再構築」については、ジョセフ・ナイ元国防次官補とアーミテージ元国務副長官ら有識者グループが12月7日、「日米同盟の強化」への報告書を発表した。2000年以来5回目であり、バイデン政権も対日政策に活用する可能性がある。
報告書はトランプ政権下で、「日米同盟の先行きは不透明感が増している」と指摘。日米同盟の「最大の安全保障上の課題は中国」と、中国の脅威を初めて前面に押し出した。さらに、「中国の圧力」にさらされている台湾への政治的、経済的関与強化を求めているのも特徴だ。
今後の日米同盟については、「相互依存に移行し、アメリカによるガイアツの時代から日本のリーダーシップへの大きな転換」と位置付けた。菅内閣に対しては
- 「中国の非合法的な野心に対抗するため」自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の堅持
- 6年連続で増加している軍事予算とミサイル防衛の追求
- 米英豪加ニュージーランドによる秘密情報協定「5アイズ」への日本参加を検討
を提案した。次期政権が提案をそのまま採用すれば、東アジアでは日本を巻き込んだ激しい米中対立がトランプ政権の時と同じように展開されるだろう。
「ヘッジ戦略」採る米同盟国
「トランプ後」、米中の緊張がすぐに緩和されるとは言えなさそうだ。
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バイデン政権の対中政策が、厳しい通商政策に加え、対中同盟の強化にあるとすれば、中国にとっては歓迎できない。冒頭に紹介した閻教授は、次期政権が重視する「同盟再構築」を意識しながら、新たな国際秩序の変化を読み解いている。
閻氏は、鄧小平氏が唱えた「韜光養晦(=能ある鷹は爪を隠す)」の外交政策を捨て、「大国にふさわしい外交政策」を提唱してきた。2020年12月1、2日、北京の解放軍系フォーラム「香山論壇」のオンラインセミナーでの閻氏の講演内容によると、
- 米中二極競争は世界全体の局面を形成するが、ドイツ、ロシア、日本、イギリスなど他の大国は(対米)同盟依存度を弱めている。(ロシアを除く)これらの国は、「ヘッジ(リスク回避)戦略」を採用している。
- 彼らはイデオロギーなどの問題で、米中いずれかにつくかの選択を望んでいない。問題Aでは中国を支持、問題Bでアメリカを支持する。こうしたヘッジ戦略は、予測可能性の低下によって、将来の国際秩序に大きな不確実性をもたらす。
- 「不安な平和」の下では大国間戦争は起きない。それが「平和」の意味である。「不安」を招くのは次の3つ。 (1)米中競争を利用するため同盟国が採用する「ヘッジ戦略」はより不確実にする(2)米中いずれかが単独で世界をリードする能力を持たず、アジア太平洋地域でもどちらかが主導的地位に立たない(3)大国は戦争手段ではなく、経済的手段に訴えるから、世界はより無秩序化する。
FOIPが日中対立の軸に
彼が描く将来像に照らせば、ハチャメチャに見えた「トランプ後」も、世界は理性に基づく協調と和解に変化するわけではない。バイデン時代とはトランプ政権を引きずる延長線上にある。そして「不安」のキーワードは「ヘッジ戦略」である。
ドイツとイギリスが、トランプ政権の求めるファーウェイ排除にただちに応じなかったのは、まさにヘッジ戦略だった(ただし、その後イギリスはファーウェイ排除の方針を発表、どいつも「審査を厳格化する」としている)。では日本は?
「ナイ・アーミテージ報告」は、菅政権に対し、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)継承を提唱した。中国はこれまでFOIP批判を控えてきたが、中国の王毅外相は「インド太平洋版NATO」と批判を開始した。
習近平氏の国賓としての訪日が新型コロナウイルスによって延期になり、日中関係の改善は足踏み状態が続く。バイデン時代に入り、尖閣、台湾と並んでFOIPが日中間の対立軸になる可能性がある。
FOIPは、安保での対中包囲を敷きながら経済は協調という、相反する方向が混在し全体像がつかめないのが最大の問題。中国との関係改善を意識して、新たにFOIPを肉付けすれば「ヘッジ戦略」になる可能性を秘めている。
(文・岡田充)
岡田充:共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。
からの記事と詳細 ( バイデン時代の米中関係を展望する。「不安な平和の始まり」と中国学者 - Business Insider Japan )
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