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Wednesday, July 28, 2021

太古の極超新星爆発の残骸から生まれた、重元素まみれの星 - ギズモード・ジャパン

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宇宙の錬金術。

銀河系内で発見されたとある星が非常にユニークな元素で構成されているのは、超新星爆発よりも10倍ほどの威力を持つ極超新星爆発によるものではなかったか──。こんな見解がこのほど学術誌『Nature』上で発表されました。

金(元素番号79)のような重い元素が宇宙で生成されるプロセスは、じつは今まで考えられていたよりも多様であるかもしれないことが徐々に紐解かれつつあります。

稀すぎる星

ユニークな元素構成を持つ星の名は「SMSS J200322.54-114203.3」。太陽からおよそ7,500光年先の天の川銀河のはずれのハロー内に位置していて、重元素まみれです。窒素(元素番号7)のほかに亜鉛(元素番号30)・ユーロピウム(元素番号63)・ウラン(元素番号92)などの重元素の割合が非常に高い反面、鉄(元素番号25)が占める割合が極端に低いのが特徴です。

「SMSS J200322.54-114203.3は、鉄:水素の割合が太陽の3000倍も低いことから金属欠乏星と呼ばれる稀な存在であることがわかっていました」とNature誌に掲載された論文の筆頭著者であるオーストラリア国立大学の天文学者、ヨング(David Yong)氏は説明しています。

「しかし、それだけではなかったんです。想定されるよりもずっと多くの重元素が含まれていることはさらに稀で、まさに"干し草の山の中に落ちた1本の針を見つけた"ぐらいの大発見でした。」

ヨングさんたちはこの稀に稀を重ねたような特異な星をスカイマッパー南天サーベイ(SkyMapper Southern Sky Survey)に登録されているおよそ6億個の天体の中から探し出したそうです。まずは2万6000個、その次は150個、という具合に候補を徐々に絞っていった上で、最終的にはSMSS J200322.54-114203.3だけが高窒素・高亜鉛の元素構成を持っていたため研究対象として選んだそうです。

超新星爆発をしのぐ大爆発

しかし、なぜ重元素まみれの星をわざわざ苦労して探す必要が?

ヨングさんによると、

今回の研究でもっとも重要な問題は「初期の宇宙において重い元素はどのように作り出されていたのか?」でした。

中性子星(neutron star:超新星爆発を起こした恒星のなれはてで、非常に高密度)の合体は重元素生成に不可欠なエネルギー源のひとつとしてこれまでも知られていましたが、今回の私たちの研究結果からは磁気回転不安定性極超新星(magneto-rotational hypernova:磁場を持ち、高速回転している恒星が起こす非常に大きな超新星爆発)も重元素を作り出すエネルギー源のひとつとして浮上してきたのです。

ここでちょっと重元素の生成について。

ビッグバンによって誕生した宇宙には、当初水素とヘリウム元素しかありませんでした。ですから、初期の宇宙に誕生した恒星はほぼ完全に水素とヘリウムのみで構成されていました。それより重い鉄までの元素は恒星内部の核融合によって作り出されました。そして、それらの初期の星たちが死期を迎え、自重に耐えきれずに崩壊して中性子星やブラックホールになるにつれて重い元素が宇宙に拡散され、やがて新しい世代の星へと引き継がれていったのです。

鉄よりもさらに重い元素が生成されるには、まず比較的軽い元素が大量の中性子を獲得することから始まります。時が経つにつれて中性子のいくらかは陽子に崩壊するので、この陽子を獲得した元素がより重い元素の同位体へと変化していきます。しかし、このプロセスには大量のエネルギーが必要です。エネルギー供給源としてこれまでもっとも注目されてきたのは、中性子星合体と超新星爆発のふたつでした。

恒星が死ぬまでのプロセスはこれまでの研究で十分に立証されているため、星が死に至る速度やそれに関わるエネルギー量から生成されるべき重元素の量を計算することも可能です。ところが、SMSS J200322.54-114203.3の場合、重元素の量がどうも計算と合わない…というか、明らかに多すぎるようでした。

「この余剰の重元素の出所が必ずあるはずです」と研究者のひとりで米ハートフォードシャー大学に所属している天文学者の小林千晶准教授は説明しています。そして、その余剰の重元素の存在を説明できる唯一の答えが、極超新星爆発でした。

効率のよい重元素の作り方

超新星爆発の残骸の一例( N 63A)。このような爆発が繰り返し起こることで宇宙に重元素が拡散されていく
Image: NASA/ESA/HEIC and The Hubble Heritage Team (STScI/AURA) via Gizmodo US

研究の末、チームがたどり着いた仮説はこうです。

130億年前、まだ宇宙がとても若かった頃に、大質量の恒星が急速に崩壊して大爆発を起こしました。この星は強力な磁場を持っていただけでなく高速回転していたので、通常の超新星爆発よりも10倍の爆発力を発揮してありとあらゆる重元素を生成しました。そして、この大爆発の澱の中からやがて誕生したのがSMSS J200322.54-114203.3だった…というシナリオです。

「SMSS J200322.54-114203.3に含まれている鉄の量が極端に少ないことから、この星が銀河系が誕生して間もない頃に誕生したことが推測できます」とヨングさん。「このように銀河が誕生してからあまり時間が経っていないことからも、重元素を一度に生成したイベントがあったと考えるほうが中性子星合体により徐々に重い元素が作り上げられていくシナリオよりも可能性が高いのではと考えられます」。

太古の宇宙には磁場を持った巨大な恒星が高速でスピンしていて、やがて今まで考えられなかったようなスケールの大きさで爆発し、同時にたくさんの重元素を宇宙にばらまいた──。小林さんが計算した銀河系の化学進化をみるかぎりでは、このような磁気回転不安定性極超新星が宇宙の進化に大きな役割を果たしたと考えるのが理にかなっているようです。

SMSS J200322.54-114203.3のような星をもっと見つけることができれば、さらに磁気回転不安定性極超新星についても確信を得られるはず。130億年前の宇宙に行って、実際に何が起こっていたかを確かめることは残念ながらできませんけど、仮説が否定されないかぎりは磁気回転不安定性極超新星説が真実である可能性はゼロではありません。

Reference: Nature, EurekAlert!, 天文学辞典

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