探査機「はやぶさ2」の往復52億キロに及ぶ旅には、省燃費で長期間航行を可能にするイオンエンジンの存在が欠かせない。初代はやぶさでは度重なる故障に見舞われたが、今回は完璧に性能を発揮。2031年に別の小惑星到着を目指す延長ミッションでも使われるほど信頼性を高めた。
はやぶさで使われたのは、マイクロ波でイオンを生成する方式。推力は小さいが放電電極が不要で長期間の使用に向く。
イオンエンジンなど「電気推進」のパイオニアで、宇宙科学研究所(現宇宙航空研究開発機構=JAXA)で研究を進めた栗木恭一名誉教授(85)は「最初は学生実験のようなもの。貧乏研究室で、マイクロ波の発生装置は電子レンジから取り出していた」と明かす。
栗木さんが研究生活を始めた1960年代は、燃料を燃やす「化学推進」が全盛だった。他の研究者からは「ロケットは飛ばしてなんぼ」と言われ、数少ない飛行実績も米国が先行していた。国際学会では技術力の差を見せつけられ、西ドイツ(当時)の研究者と「お互い敗戦国で一時研究を禁じられた境遇。米国がやってないことをやろうじゃないか」と励まし合ったという。
80年代になると、栗木さんは米スペースシャトルを使って運用する実験装置(SFU)などの責任者を務めつつ、イオンエンジンの開発を始めた。
シャトルの経験から、維持管理が簡便なマイクロ波放電方式に着目。欧米も手を着けておらず、「ドイツの研究者と約束した『おれたちのエンジンで行こう』という主義とも合う」と感じた。
後に初代はやぶさのイオンエンジン開発責任者を務めることになる国中均さん(JAXA宇宙科学研究所所長)も83年、研究室に加わる。電子レンジから始まった開発は徐々に形となり、89年に試作機が完成。信頼性も高め、初代の推進装置に採用された。
初代はやぶさの時は「片道到達しただけで100点だと思った」という栗木さん。はやぶさ2の活躍に「隔世の感がある」と語る。「動いて当たり前と思われるようになれば、こんなにありがたいことはない。エンジニアリングの冥利(みょうり)に尽きる」と目を細めた。
【了】
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December 04, 2020 at 12:15AM
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始まりは「電子レンジ」=快挙支えたイオンエンジン―開発先導の研究者・はやぶさ2 - 乗りものニュース
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