今回から、不動産関係者や投資家といったプロ向けの住宅レポートを有料記事として展開。デベロッパーや販売会社への直接取材で聞き出した開発秘話や販売の工夫などを紹介することにした。
マンションや一戸建て住宅を取材してまわっていると、工夫のほどに感心して、賞賛したくなることがある。
ただし、その工夫はプロにとって「偉大な一歩」であっても、興味の薄い人にとっては、どうでもいいことだったりする。なかなか、記事にしにくいのだ。
そこで、プロ向けの有料記事であれば、書きたいことを思い切り書くことができると考えた。大学を出て編集の仕事に就いてから40年以上、不特定多数の人を念頭に記事を書き続けてきた私にとって、有料記事は新しい世界に踏み出す気持ちにさせてくれる。
記事をつくる私も、新たな分野を楽しみにしている。
なお、第1回の記事は下の「サンプル記事」のリンクから全文を読むことができる。そして、一般的な住宅関連記事は今までどおり無料記事として書いてゆく。
有料記事第1回は、湾岸エリアで分譲されている「ブランズタワー豊洲」における“偉大な工夫”を取り上げたい。
湾岸居住者が認める、建物の質の高さ
地上48階建て、総戸数1152戸の「ブランズタワー豊洲」(東急不動産、NIPPO、大成有楽不動産、JR西日本プロパティーズ)は、東京メトロ有楽町線の豊洲駅から徒歩4分に建設される超高層マンションだ。豊洲エリアでも、駅に近いマンションとなるのだが、その特徴は「駅近」だけではない。
今、湾岸エリアで新規分譲マンションが出ると、真っ先に関心を示すのは、じつは、すでに湾岸に住んでいる人たち。「新しいマンションは、どんなだろう」「良質で、価格が折り合えば、購入してもよい」とモデルルームを見に来る。
所有している湾岸のマンションを中古で売れば、購入時よりも高く売れる。賃貸に出したときの家賃設定も高い。だったら、買い替えても、もしくは買い足してもよいかな、と考える人が多いためだろう。
そして、湾岸在住の知り合いと、見学してきた感想で盛り上がる。その湾外在住者の間で、すこぶる評価が高いマンションが「ブランズタワー豊洲」だ。
理由は、建物と専有部のつくりがよいと評価されているから。まず、免震の効果が大きいとされる「中間免震構造」を採用し、非常用電源は72時間分を備える。そして、約43平米の1LDKから約219平米の3LDKまでバリエーション豊富な住戸は、開放感が大きいことも高評価の理由だ。
実際、「ブランズタワー豊洲」のモデルルームでは大きな開放感を感じる。それを感じさせるために、いくつかの工夫が凝らされている。
たとえば、角住戸には床面から立ち上がるコーナーサッシを配置。このコーナーサッシは背が高いにもかかわらず、横桟を入れず、縦桟だけで構成される。高い風圧が想定される超高層でハイサッシの横桟を無くすのは、たいへんだったろう。
また、万が一、ガラスにキズが入ったなどの理由でガラス交換をするとき、交換用ガラスをエレベーターで運びやすくするためには、横桟と縦桟でガラス1枚のサイズを小さくしたほうがよい。そういった設計上の困難さ、管理上の都合を押し切って、縦桟のみのコーナーサッシをつくった努力に脱帽したい。
一方、バルコニーに設置されるガラスの手すりには、一般的な縦桟に加えて横桟が2本入れられている。これは、手すりの高さを150センチにしているため、風圧に耐えるための補強である。
バルコニーに出たときの恐怖心を軽減させるために、手すりを高くしたのだが、高くするための補強も行ったわけだ。
ガラスの桟に関して、場所に応じた最善の方策がとられている。
「ブランズタワー豊洲」で最も注目すべき特徴は、しかしながら、ガラスの桟ではない。私が注目するのは、以下の2点。「隣接する小学校の校舎増築」と「1戸に1つずつ配置される大型の防災倉庫」だ。
居住者が隣接する小学校に通うことができるように
上の写真は、2019年2月、「ブランズタワー豊洲」の販売開始に先立って行われた記者発表で公開された敷地配置図。「ブランズタワー豊洲」の住宅棟予定地の南側に「小学校増築予定地」とある。
これは、隣接する豊洲西小学校の校舎を増やす工事が行われることを示している。
校舎が増えるおかげで、「ブランズタワー豊洲」に住む児童は、豊洲西小学校に通うことができる。校舎が増えなければ、定員一杯を理由に、入学はできなかった。
都合よく小学校が増築してくれてよかったねえ、と思う人は、まずいないだろう。ご明察のとおり、「ブランズタワー豊洲」は、敷地の一部を使って校舎を建設し、小学校に無償譲渡するのである。
新たな校舎とその用地を無償譲渡することは、「ブランズタワー豊洲」の分譲価格に影響を及ぼす。1戸あたりの価格は多少とも上昇することになる。価格が上がるが、「隣接する小学校に子どもを通わせることができる」という長所が生まれる。
これが、もし「隣接する小学校には通えません」となったら、どうなるか。子育てをしているファミリー世帯はガッカリして、それを理由に購入を見合わせる可能性が出てくる。その場合、「小学校は遠くなりますが、その分、分譲価格は安くなっています」といっても、納得してくれるかどうか。
そして、「価格の安さ」でいえば、ほぼ同時期に販売を開始した「晴海フラッグ」の分譲住宅にかなわない。「晴海フラッグ」と「ブランズタワー豊洲」では、駅からの距離、既存の商業施設への近さなど立地条件が大きく異なり、地下鉄駅と「ららぽーと豊洲」に近い「ブランズタワー豊洲」のほうが、高い価格設定となる。
だったら、価格に見合う「長所」を多くしようとする姿勢は正しい。「長所」のひとつが、隣接する小学校に通うことができることとなる。隣接する小学校に子どもを通わせることができれば、親の安心感は大きい。そして、中古で売るとき、賃貸で貸し出すときの大きなアピールポイントにもなる。
大きな防災備蓄倉庫が付くという長所も
「ブランズタワー豊洲」には、1戸にひとつずつ防災備蓄倉庫が付く、という長所もある。その防災倉庫は、サイズが大きく、玄関錠と同じキーで施錠・解錠ができるので、各住戸ごとに管理される。
まるでトランクルームのようだが、防災備蓄の目的でしか使えないことになっている。これは、防災備蓄倉庫であることを理由に容積算入外となっているため、仕方のないことだろう。
それでも、これだけ大きな「各戸の防災倉庫」を容積に入れずに済んでいるとは、おそれ入る。
小学校の校舎にしろ、各戸の防災倉庫にしろ、実現させるには、行政との交渉が必要だ。大規模マンションの場合、この「交渉力」が物件の魅力を左右する。「ブランズタワー豊洲」は、高い交渉力で勝ち取った長所が多い。それは、同マンションの大きな魅力になっている。
次回以降の予定記事
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May 26, 2020 at 07:00PM
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