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Tuesday, March 19, 2024

2人の対なる運命、“ジョジョ”伝説の始まり~ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』観劇レポート - Musicman | 音楽業界総合情報サイト

荒木飛呂彦の人気コミック『ジョジョの奇妙な冒険』を原作にしたミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』。シリーズの始まりとなる第1部「ファントムブラッド」をベースとしたストーリーは、壮大なスケールで描かれる熱き生き様に胸を打たれた。ジョナサン・ジョースターを有澤樟太郎、ウィル・A・ツェペリを廣瀬友祐が演じた帝国劇場公演の模様をレポートする。

19世紀のイギリス、貴族階級の一人息子である“ジョジョ”ことジョナサン・ジョースター(松下優也/有澤樟太郎)と、ジョースター家に養子として迎え入れられたスラム街出身のディオ・ブランドー(宮野真守)がともに育ち、やがてメキシコから発掘されたという<謎の石仮面>をめぐり対峙していく。

ステージ上に鎮座するのは大きな円、象徴的な階段、半円状のスロープ。美しくも不穏な世界観を凝縮したセットは壮観で、開演前から心が躍る。冒険譚の語り部はスピードワゴン(YOUNG DAIS)。ラップを取り入れた疾走感のあるナンバーは、“ジョジョ”シリーズ全体に漂う個性的でスタイリッシュな空気感を彷彿とさせた。

製作:東宝 (C)荒木飛呂彦/集英社

製作:東宝 (C)荒木飛呂彦/集英社

この公演でジョナサン・ジョースターを演じたのは有澤。第一声から、あっという間に人を惹きつける存在感に息をのんだ。父・ジョースター卿(別所哲也)による“本当の紳士”になるべく邁進するタフネス、愛犬ダニーへ向ける純粋さは物語を享受する観客にとっても心の拠り所となる。清水美依紗が可憐に気高く演じるエリナ・ペンドルトンとの逢瀬は微笑ましく、デュエットでは弾むような恋心と互いを思いやる深い愛をストレートに伝えてくる。

本作でのディオは、“ジョジョ”との対極性を強く打ち出されている。貧しい家に生まれ、父であるダリオ・ブランドー(コング桑田)からのひどい仕打ちに耐えた幼少期。冒頭のソロナンバーには苦悩や葛藤が凝縮されており、演じる宮野により儚い脆さと根底に秘めた力強さの相反する性質を繊細に歌い上げられていた。

製作:東宝 (C)荒木飛呂彦/集英社

製作:東宝 (C)荒木飛呂彦/集英社

“ジョジョ”とディオが出会い、過ごしていく7年もの時間は“青春”と称される。だが、通常イメージされるきらびやかな関係性ではない。ディオがひた隠しにする邪悪さに勘付きながら、ジョースター家を守るため奔走する“ジョジョ”。そんな2人を分け隔てなく育てたのが、父であるジョースター卿だ。息子たちへの慈愛を含ませた重厚な別所の歌声は、まさに“本物の紳士”たる説得力そのもの。だからこそ、ジョースター家の行く末が切なくてたまらない。

様々な人々と出会っていく“ジョジョ”に、多大なる力を与えるのが<謎の石仮面>を追うウィル・A・ツェペリ(東山義久/廣瀬友祐)だ。観劇日にツェペリを演じていた廣瀬は、役どころであるトリッキーさとダンディズムのバランスが絶妙。ソロナンバーでは高低差のあるメロディも艶やかに操り、“ジョジョ”とのデュエットでは有澤と共に力強く響かせる。

製作:東宝 (C)荒木飛呂彦/集英社

製作:東宝 (C)荒木飛呂彦/集英社

製作:東宝 (C)荒木飛呂彦/集英社

製作:東宝 (C)荒木飛呂彦/集英社

“ジョジョ”が持つダークファンタジーの魅力は、演出を手掛ける長谷川寧が得意とする身体を使った表現によりさらに引き出されていた。迫力のある群舞、浮遊感を視覚的に見せるリフトやフライング、ディオに対抗する手段として“ジョジョ”へ伝授する<波紋法>の表現も巧み。セット転換や映像と融合させながら〈“ジョジョ”といえば〇〇〉と称されるような数々の名台詞や名シーンを、しっかりとインパクトを与えてくれる。ドーヴ・アチアが手掛けた音楽(共同作曲:ロッド・ジャノワ)は、ポップで耳馴染みの良い印象ながら物語にしっかり効いてくる。生バンドによる“ジョジョ”らしい擬音の再現も観劇中の楽しみのひとつだ。

製作:東宝 (C)荒木飛呂彦/集英社

製作:東宝 (C)荒木飛呂彦/集英社

ストーリーが進むにつれ、狂気を帯びていくディオ。どこか情緒的で甘美な佇まい、大胆で特徴的な挙動といったディオを彩る重要な要素を、宮野は序盤から終盤にかけてグラデーションを描きながら表現していった。対する有澤の“ジョジョ”は、一貫した芯の強さに厚みを増していくような成長を感じさせてくれる。深く、どこまでも広がっていくような歌声からもキャラクター性が滲んでおり、ソロナンバーでは吸い込まれるような、デュエットでは相手と手を取り合うような融和性が心地良かった。

“ジョジョ”とディオ、対なる正義と信念。2人の生きざまから提示される強烈なメッセージは、しばらくのあいだ心に残りそうだ。上演時間約3時間30分(休憩含む)ものあいだ、どっぷりと“ジョジョ”の世界に浸った。

製作:東宝 (C)荒木飛呂彦/集英社

製作:東宝 (C)荒木飛呂彦/集英社

帝国劇場での上演は2月28日(水)で終了。3月26日(火)~3月30日(土)に札幌文化芸術劇場 hitaru、4月9日(火)~4月14日(日)に兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホールにてツアーも控えている。さらに、4月13日(土)17:00兵庫公演、14日(日)12:00兵庫大千穐楽公演のLIVE配信も予定。
 

取材・文=潮田茗

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