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Friday, October 27, 2023

[始まりの1冊]『政党と官僚の近代』 2007年 清水唯一朗さん - 読売新聞オンライン

 卒業論文では政党内閣期のはじまりとされる第二次護憲運動を超然内閣のおわりと捉え、既存勢力がなぜ退場を選んだのかを論じました。国民が選んだ勢力と選ばれていない勢力による政治に興味がありました。

 官僚に着目したのも同じ筋です。私が学部生の間にその 無謬むびゅう 性神話は崩れ、戦後の復興と成長を支えた政治家と官僚の協働にもヒビが生じていました。ならばと、大学院では政官関係の形成に取り組むことにしました。

 ところが、テーマが壮大すぎて何から手を着ければよいかわからない。頼みの綱の指導教授も留学に出てしまう。なんとかせねばと国立公文書館に通い続けたところ、ひとつの資料と出会いました。

 それは官僚の採用、身分、昇進などを規定する法令の審査資料でした。伸びてくる政党勢力と守る政府の間で、どのような人材を採用するか、政治任用をどこまで認めるか、激しい議論が記録されていました。

 この制度の変遷を軸にすれば体系的に政官関係を描くことができる。ホッとしました。ひたすら資料を集め、書き続けることができました。

 大学や分野の枠を超えたことも転機になりました。賛同してくれた仲間たちと立ち上げた研究会は、誰でも参加できるよう間口を広げ「内務省研究会」と名付けました。

 ここでできた仲間には何度も救われています。若いWさんには「清水さんやNさんはまるでブルドーザーだ」と言われました。資料を根こそぎ持っていき、草一本も残さない。ひとつひとつ吟味せず大雑把に使ってしまうと。ありがたい警句でした。

 かつて政治史の研究者は歴史学が 見出みいだ した資料を政治学の知見とあわせて大きな絵を描いていた。ところが、今は一緒に資料を探すことに躍起で絵を示していない。歴史学のC先輩には「最近、政治史の若手は私たちと一緒に苗を植えているのではないでしょうか」と問われました。ショックを受けましたが、井戸の中に光が差した思いがしました。

 政策研究大学院大学と東大先端研で取り組んでいたオーラルヒストリーの知見と歴史的制度論をもとに政治学からの含意を探り、担当のKさんとの議論を重ねて、ようやく「始めての一冊」ができました。志のある若者に政府の門戸が開かれ、「行政を通じた政治参加」が近代化を推し進めたと論じました。

 本書を刊行した年に慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスに着任しました。ここには社会を良くしようと取り組む現代の志士たちがいました。二冊目となった『近代日本の官僚』(中公新書)は、彼らを応援する思いがこれまでの研究と結びついた成果です。

 現在は選挙区の形成過程を研究しています。政治参加の基本に立ち戻ったというところでしょうか。大学と分野の横断を目指した内務省研究会も昨年で百回を数え、来年には節目となる成果を出せそうです。政治学と歴史学の交流もずいぶん進んだように感じています。

 あとは「始まり」のテーマである政官関係の現状が気にかかります。研究にできることは限られていますが、再構築に資する材料を示せるよう、政官学の取り組みを続けています。=寄稿=

  清水唯一朗 (しみず・ゆいちろう) 1974年生まれ。慶応大大学院法学研究科単位取得、退学。東京大先端科学技術研究センター特任助手などを経て、慶応大教授。専門は、日本政治外交史、オーラル・ヒストリー。著書に『近代日本の官僚』『原敬』など。

 『原敬』(中公新書)では、現代を意識しながら、行政と立法の横断を論じました。

 目下の たの しみは国際研究交流です。八月にベルギーで開かれたヨーロッパ日本研究学会には各国から千二百人もの日本研究者が集まりました。研究の 沃野よくや は交流にあると感じています。

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