中国は3年前、習近平国家主席が掲げる「共同富裕」運動の一環として住宅をより手ごろな価格にするため、急成長を遂げた不動産セクターを締め付けた。借金頼りの住宅ブームのリスクを減らす狙いもあった。
だが、少しやり過ぎだったのかもしれない。かつて不動産業界を支える1社だった 碧桂園がデフォルト(債務不履行)の瀬戸際にある。同社は「大き過ぎてつぶせない」企業とは見なされていないようだ。
状況は悪化の一途をたどっている。さらに多くの不動産開発会社が追い込まれつつあり、小規模都市では住宅価格が急落し、その影響は60兆ドル(約8700兆円)規模の中国金融システムにまで及んでいる。シャドーバンク(影の銀行)の 中融国際信託は今月、数十の高利回り投資商品の支払いを怠り、投資家らが北京にある本社の前で抗議した。
習政権についての著書もあるエコノミスト、ジョージ・マグナス氏は「不動産の好不況は一般的に極端なものだが、中国の場合は特に顕著だ。このセクターは経済規模全体との比較で非常に大きく、家計の貯蓄や信頼感という点でも非常に重要だ」と指摘する。
崩壊
何年もの間、債務をてこにした不動産ブームは、中国経済の驚異的な成長を支えてきた。それが持続不可能であることは想定されていたが、今目にしている崩壊のスピードは驚くべきもので、消費者需要の低迷や輸出不振、米国との緊張の高まりにすでに悩まされている中国にとって、状況は一段と厳しくなっている。
現在の不動産「メルトダウン」は多くの点で、中国政府自らがつくり出した危機だ。1990年代の不動産セクター民営化では、中国の歴史で最大規模の富の移転が行われた。実業家らはここぞとばかりに銀行から多額の資金を借り入れた。
このブームは地方政府を活性化させ、世界の債券投資家や中国のミドルクラス(中間所得者層)を勢いづかせた。中国経済で不動産が大きな役割を果たすようになった。
最盛期には、不動産セクターは直接・間接的に国内総生産(GDP)の約4分の1を占め、家計資産の8割近くを占めた。さまざまな推計があるが、新築・中古住宅に在庫を加えると、このセクターは2019年に 約52兆ドル相当と、米不動産市場の約2倍の規模に膨れ上がった。
だが、こうした中で住宅価格は高騰。若い世代が持ち家を手にすることが難しくなり、格差を是正し共に豊かになろうという習政権の看板政策を脅かした。
2020年後半に積極的な規制強化の引き金となったのが、 中国恒大集団の流動性不安だ。新型コロナウイルス対策としてのロックダウン(都市封鎖)も打撃となり、中国恒大や 融創中国などのデベロッパーはデフォルトに陥った。
中国の不動産事業に資金を供給していた世界の債券保有者は憂慮すべきディストレス比率におびえ、資金調達コストを押し上げた。結局、2000億ドル規模の不動産債券市場はほぼ壊滅。この市場での高利回りのジャンク(投資不適格)債取引は一時、世界で最も収益性の高い債券トレーディングの一つだった。
シャドーバンク
ブルームバーグがまとめたデータによると、中国の不動産開発会社が発行したドル建て債498本のほぼ3分の1がデフォルトし、パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)やフィデリティ・インターナショナルを含む投資家に対し未返済の借入金600億ドルが残っている。
頻繁なデフォルトは、まだ始まったばかりかもしれない。政府は、かつて売り上げで中国最大手の不動産開発会社だった碧桂園ですら救済する意向はほとんどないようだ。上場している国有不動産会社38社のほぼ半数が、今年1-6月(上期)に損失を計上した。
今懸念が高まっているのはシャドーバンクだ。中融などのこうしたノンバンクの多くはコロナ禍後の回復を見越しデベロッパーを支えてきた。中融の大株主は現在、債務再編を図っているが、そうした負債には投資商品を購入した個人に負う数十億ドルも含まれている。
ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)によれば、不動産不況は中国の大手商業銀行にも波及しており、不良債権率が2022年の3倍になると仮定した場合、大手銀行10行の不動産ローンの不良債権額は来年1200億ドルに急増する可能性が高い。
公式統計によると、 新築住宅はこのところ毎月ほぼ値下がり。不動産会社からの報告では、過去2年間で15%余り価格が下落した地域もある。こうした相場下落は住宅を買いやすくしたいという政府の方針の助けにはなるだろうが、住宅評価額の低下は一般市民の心を打ち砕いている。
負の影響
数年にもわたり値上がりし続けた不動産を、中国の消費者は見逃すことのできない投資対象と考えるようになっていた。投資のため借金をした人々にとって、高額な住宅ローンを支払うことは、不動産の価値が下がれば下がるほどむなしさを感じるばかりだろう。
住宅は必ず値上がりするという「神話」は今や崩壊した。若者の失業率が急上昇し、政府は統計の公表を中止したが、若い世代の持ち家志向は後退しそうだ。負の影響は驚くほどだ。ウォール街の銀行は、中国の経済成長率が 今年5%に達しないと予測を下方修正した。中国資産は価格が急落。株式も債券も大きく値下がりし、人民元は16年ぶりの安値に近づいている。
中国政府は今、このセクターを支えようとしている。全面的な救済は控えたものの、比較的体力のある不動産開発会社に再び資金が流れるようにするため、多くの対策を発表した。こうしたデベロッパーは大半が国有だ。
混乱の恐れ
数十万人の住宅所有者は昨年、住宅ローン返済のボイコットに動いた。購入した住宅が未完成で引き渡しが遅れていることへの抗議だった。当局は停滞している住宅プロジェクトを完成させるよう働きかけている。中国人民銀行(中央銀行)は8月15日、景気を下支えするため 利下げを発表。0.15ポイントの引き下げ幅は2020年以来の大きさだった。
今注視されているのは、北京や上海などの大都市で住宅ローン・頭金要件の緩和など住宅の購入制限が緩められるかどうかだ。ケンブリッジ・ジャッジ・ビジネス・スクールのクリストファー・マーキス教授は「政府の支援的な政策がもっとはっきりするまで、中国の経済状況が良くなるとは思えない。最近はリスクとマイナス面ばかりしかないように見える」と話す。
明らかなのは、今後数年のうちに中国の不動産業界が様変わりする可能性があるということだ。急速な高齢化に加え、都市化のピークが迫っていることは、不動産にとっての栄光の時代が終わったことを意味する。売れ残り住宅の処理には何年もかかるだろう。民間企業の不良資産は処分され、国有企業の市場シェアが高まることになる。
エコノミストのマグナス氏は「運が良ければ、そしてしっかりとした政策決定がなされれば、中国は今後10年で不動産に依存しない経済に移行するかもしれない。しかし、それは非常に厄介なプロセスとなり、金融不安や経済・社会的混乱を伴う恐れもある」と分析している。
原題: China’s Debt-Fueled Housing Market Is Having a Meltdown, Again(抜粋)
(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)
からの記事と詳細 ( 中国住宅市場の「メルトダウン」、厄介なプロセスの始まりか - ブルームバーグ )
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