「異次元」の超低金利政策を続けてきた日銀が、事実上の利上げに踏み切った。黒田東彦総裁は金融緩和路線は変わらないとうそぶくが、「アベノミクスの終わりの始まり」の感が漂う。専門家からは、安倍晋三元首相の死去で政治力学が変化したとの指摘が相次ぐ。(特別報道部・中沢佳子)
◆「利上げではない」と言われても株価急落
「長期金利の変動幅を、従来のプラスマイナス0.25%程度から0.5%程度に拡大する」。20日の金融政策決定会合後の記者会見で、黒田氏はこう宣言した。政策転換かと色めきたつ記者らがただすと、「市場機能の改善のため。利上げではない」「出口戦略の一歩では全くない」と強調。しかし、市場は事実上の金融引き締めと受け止め、円高ドル安が加速し、株価は急落した。
2013年から続く大規模な金融緩和はアベノミクスの重要な柱。しかし、世界各国が利上げを進める今も頑として超低金利を続ける日本は円安に苦しみ、物価高で人々の暮らしは圧迫されていた。
立教大の金子勝特任教授(経済学)は事実上の利上げを「アベノミクスの
◆黒田総裁退任前の逃げ切り策?
なぜこのタイミングだったのか。指摘するのは安倍氏の不在だ。「存命中はアベノミクスの失敗を口にできず、日銀は追い込まれていた。黒田氏は来春の退任を控え、逃げきり策で政策を修正した」
立命館大の高橋伸彰名誉教授(日本経済論)も「2%の物価安定目標を達成せずに変えれば、アベノミクスの間違いを認めることになる。とはいえ安倍氏の死後、すぐに変えるのもあからさま。日銀は意味のない金融緩和を終える時期を、見計らっていた」とみる。
そこに岸田文雄首相の意向が強く働いたと考えるのは、政治ジャーナリストの泉宏氏だ。「今の日銀の政策は首相の考えとずれていた。他国との金利差も開くばかり。岸田政権としても、黒田氏を放置していては立場が苦しくなる。今、サプライズを仕掛けるしかない。官邸から黒田氏に言い含め、『政策転換ではないが、実質利上げ』の形にしたのでは」
大和証券の末広徹チーフエコノミストは自民党安倍派との関係を指摘。「首相は当初、アベノミクスと路線の違う『成長と分配』を掲げた。安倍派の反発で路線継承の構えを見せたが、安倍氏が亡くなって空気が変わった。防衛費増額に対応する増税策など『脱アベノミクス』の動きが始まった」と分析する。
◆安倍派の巻き返しはあるのか
安倍派には警戒感が拡大。世耕弘成参院幹事長が「アベノミクスの基幹である金融緩和の姿勢には変化がない」と発言したと時事通信は報じているが、末広氏は「安倍派は必ずしも一枚岩ではなくなり、束になって反旗を翻す状況にはない」と指摘する。
首相の安倍氏離れは、新年度の税制改正大綱にも表れていると高橋氏は話す。「富裕層への課税を強化し、防衛費の財源に法人税増税も挙げた。安倍政権の富裕層優遇、法人税減税の流れにメスを入れている」
政治ジャーナリストの藤本順一氏は「『自分の色』を出そうとしている首相にとって、日銀の政策転換は政治的メッセージ」ときっぱり。防衛増税を巡って高市早苗経済安全保障担当相が「総理の真意が理解できない」と批判したのも前哨戦だったとし、今後の展開を見通す。
「年明けは予算や財源の審議があり、その後は日銀総裁人事が控えている。首相はアベノミクスの象徴的存在である黒田氏の路線は踏襲させないだろう」
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