某月某日、気管支炎、思った以上に手ごわく、ステロイド薬は一時的には効くのだけど、5時間くらいすると、再び咳が出はじめる。
喉がいがらっぽくなることを、フランスでは「喉に猫がいる」と言う。
まさしく、その感じ。今日は朝早くから、引っ越し道具などを買いに専門店カストラマに行ったのだけど、レジとかで咳が出ると、みんな、驚き、ぼくを振り返って睨みつけてくる。
もちろん、マスクをしているが、逆に誰もマスクをしてないフランスでマスクをして咳き込むと、どうなるか、想像して頂きたい。
周囲に並んでいる人がポケットから一斉にマスクを取り出し、付ける。
で、マスクを持ってない真ん前のおじさんがいて、逃げ遅れたような顔で、慌てて肘の裏側で自分の口を塞いだ。
目が合ったので、
「あの、気管支炎ですから、コロナじゃありません」
と必死で説明をしたのだけど、気管支炎の時って、言葉がちゃんと出ず、それが激しい咳になって、言葉が途切れて、こ、ころな、じゃ、ないです、みたいになり、さらに、おじさん、引いてしまった。咳のし過ぎで、横隔膜がいてー。こんちくしょー。俺はコロナじゃないんだよ。
そんな破れかぶれな父ちゃんに対して、心優しいフランス人の皆さん、頷きながらも警戒心を緩めない。やれやれ、こんな状態じゃ買い物にはいけやしない。
夜は眠れるようになったが、この思わぬ気管支炎のせいで、元気が出ない日が続いている。健康じゃないと人間はやっぱり、活動的になることが出来ない。
熱血父ちゃんなのに、この2,3日の日記を読み返すと、すっかり元気がない。どうしたんだい、へへーい、父ちゃん。ぶっとばそうぜー。
秋の快晴のパリを歩きながら、(三四郎は一人でお留守番。たまには、一人にも慣れてもらわないと引っ越しなど、出来やしない)どうやったら再び熱血に戻ることが出来るのか、考えてみた。
※ 父ちゃんを心配する三四郎。父ちゃん目掛けて、はっぱをかけてきます。
質問。
「あなたはどういう時に幸福を感じますか?」
ぼくは自分に問いかけてみた。
暫く、歩いていると、行列のできるケバブのお店があった。
日曜日だから、若い人たち、家族連れ、恋人たちが、ケバブ・サンドにかぶりついて、うめー、と叫んでいる。
ぼくは彼らをじっと見続けた。そうだ、「毎日ごはん」のことを忘れていた。
ぼくの生きる上での基本哲学である。
毎日、丁寧に食事と向きあうことが苦しい人生を乗り切る最善の方法だ、という哲学。
人間、たとえ一人であろうと、自分にも愛情を注がないとならない。
美味しものを食べてこその元気だ。
美味しいお酒を舐め、美味しいごはんを食べることに命をかけてきたじゃないか。息子のために作るのじゃなく、自分のために作るこの毎日ごはんに心血を注げば、必ず、ぼくは復活する。そうだ、その通り!!!
思えば、美味しいと思うことから、遠ざかっていた。
ここ最近は、外食ばかりであった。
作る相手がいないので、手抜きになっていたけれど、心と身体は不満だった。だから、元気が出なかったのだ。
気管支炎だけのせいじゃない。美味しいと感じないと元気にはならない。
美味しいものを食べようじゃないか!
ぼくはスーパーに飛び込んだ。そして、目に留まったものを次々、カゴの中へと放り込んでいった。
ワインフェアをやっていたので、美味しそうなワインを買い、肉屋でうまそうな豚肉の胸肉を買い、野菜コーナーで色とりどりの野菜を買い占め、魚屋でもついでに元気がでるホッキョクグマの好物、サーモ~ンを買ったのだった。
さて、何が出来る!!!
こういう時は、あまり豪華なものを作ってもいけないので、ぼくはカレーを煮込んだ。
蓮根が野菜室にあったので蓮根と豚胸肉のカレーにした。
大量のターメリックを投入し、栄養価をあげた。
野菜はアボカド、トマト、枝豆、紫玉ねぎ、胡瓜、人参などをつかって、サラダを作った。そこにサーモンをぶっこんでおいた。おお、美味そうじゃないか!!!
「ねっけーつ!」
父ちゃんは合言葉を思い出していた、熱血こそがこの怠惰な人生に光を指す唯一の武器なのである。
ひとなり、熱血に生き抜くことを忘れたらいけん。
「合言葉は、熱血であーる!!!」
熱血光線を眉間から噴射しながら、料理に没頭をしたことで、なんとなく元気になり、なんとなく咳が止まった気がしたのだけど、たしかに、料理が並んだら、爽快であった。
美味いものを食べる。毎食毎食に命をかける。これが父ちゃんのエネルギー源だったことを思い出せたことは、秋の日の日曜日の収穫であった。
合言葉は熱血。
つづく。
ということで、今日も読んでくれてありがとうさまです。
カレーは昼前には出来たのだけど、食べごろは夜でありました。サラダは昼にも食べたのだけど、残ったので、夜にも食べました。ワインも美味しくいただけました。一食一食をきちんと食べきることで、明日に向かってダッシュできるのだと信じています。お待たせしました。おセンチになっている暇はありません。まもなく、父ちゃん、復活します!
さて、父ちゃんからのお知らせです。
さあ、迫ってきましたねー。NHKBSのあの番組が、もう、すぐ、金曜日です。
■「ボンジュール!辻仁成のパリごはん2022夏」
本放送:2022/9/23 金曜日 22時〜22時59分
それから、それから、小説教室が9月24日(土)に迫ってきました。熱血でいきます。一度は小説を書いてみたいけれど、小説の敷居が高く感じて、なかなか書けないとお嘆きの皆さまに、わかりやすい、父ちゃんの小説講座です。愉しみながら、小説を書いちゃいましょう。
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※ さんちゃー-ん!
からの記事と詳細 ( 滞仏日記「熱血父ちゃん復活へ向けたリハビリが始まりました。えいえいおー」 - Design Stories )
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