漫然と前例に倣い、とっさの対応も取れなかった。節穴をふさげば、最悪の事態は防げたはずだ。
安倍晋三元首相が奈良市で街頭演説中に銃撃され死亡した事件で、警察庁は警護のミスが重なり、付け入る隙を与えたことを公式に認めた。不可抗力の犯罪ではなかったことになる。
当時の警護に関する同庁の検証・見直しチームが途中経過を明らかにした。今月下旬に検証結果をまとめた上で責任を明確にするとみられる。
自己検証は必要だが、組織対応に瑕疵(かし)があった以上、警察内部で完結するのは妥当ではない。第三者の意見を取り入れ、検証結果と再発防止策に反映させるべきだ。
検証チームは警護を担った奈良県警が過去の事例を安易に踏襲し、計画段階の検討が足りなかったと指摘した。
検討不足は警護体制にいくつもの隙を生じさせた。
演説場所のガードレール内側には警視庁のSP(警護官)1人と奈良県警の警護員3人が配置され、安倍氏の右後方に2人いた。うち1人はガードレール外側の車道上におり、安倍氏の後方を主に警戒することになっていた。
ところが、演説開始直前、この警護員は別の要員の指示でガードレールの内側に位置を変更した。安倍氏の右手側で増え始めた聴衆に注意を集中させたため、後方を主に警戒する要員はいなくなった。
この場所では6月25日に自民党の茂木敏充幹事長が街頭演説を行っており、安倍氏の演説はその配置に倣った。
配置変更が現場の統括役に報告されておらず、検証チームは意思疎通と現場指揮が不十分だったと指摘した。演説者の前方を重点警戒し、後方は手薄になったものの、臨機応変に動かなかった。これが致命的なミスになった。
警護員は1発目の銃声を「花火のような音だった」と振り返った。発砲音と認識しておらず、即応力の欠如も目を覆うばかりだ。現場周辺には十数人の私服警官がいたものの、犯罪抑止が期待できる制服警官は1人もいなかった。
1発目の発砲から2発目まで3秒弱。白昼の凶行は演説の聴衆に目撃され、スマートフォンなどで撮影された映像は動かぬ証拠として、インターネット上で拡散した。
山上徹也容疑者(41)が車道に出て、安倍氏の後方に近づく様子も映されていた。視聴した人はすぐ疑問を抱いた。なぜ、誰も不審者と察知せず、自由にさせてしまったのか。なぜ、誰も身をていして安倍氏をかばおうとしなかったのか-と。
不特定多数の人を集める街頭演説は選挙活動に不可欠だ。言論の自由を阻害することなく、警護の質を向上させなければならない。警察は取り返しのつかない失態をさらし、治安に対する信頼は地に落ちた。信頼回復へ組織全体で危機感を共有すべき時だ。
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