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Saturday, June 25, 2022

アメリカの一部で中絶クリニックの閉鎖始まる 中絶権の合憲性覆す最高裁判断受け - BBCニュース

Celebrations outside Supreme Court

画像提供, Getty Images

米連邦最高裁が24日、アメリカで長年、女性の中絶権を合憲としてきた1973年の「ロー対ウェイド」判決を覆したことを受けて、一部の州では中絶手術を提供してきたいわゆる「中絶クリニック」の閉鎖が始まった。最高裁判決を受けて、アメリカでは女性の中絶権が合衆国憲法で保障されなくなった。

13の州ではすでに、連邦最高裁が「ロー対ウェイド」判決を覆せば自動的に中絶を禁止する、いわゆるトリガー法が成立していた。このうち、ケンタッキー、ルイジアナ、アーカンソー、サウスダコタ、ミズーリ、オクラホマ、アラバマの各州では、最高裁判決を受けて中絶禁止法が施行された。ほかの多くの州でもこうした法律が成立するとみられる。

ジョー・バイデン米大統領は判決を受けて、「最高裁にとって、そしてこの国にとって悲しい日だ」と述べ、最高裁は「多くの国民にとってあまりに基本的な憲法上の権利」を「制限するのではなく、あっさり奪い取った」と批判した。アメリカ各地で、抗議デモが起きている。

その一方で、用意していたトリガー法が施行されたアーカンソー州のリトルロックでは、最高裁判決がオンラインに掲載されると、中絶クリニックが待合室のドアを閉ざした。中では、人の泣き声が聞こえた。スタッフは次々と女性患者たちに、予約キャンセルを電話で伝えた。

アシュリー・ハント看護師はBBCの取材に対して、「悪い知らせにそなえてどれだけ準備をしても、ついにそれがやってくると、ショックは大きい。患者の皆さんに電話をかけて、『ロー対ウェイド』が覆されたと伝えなくてはならないのは、胸が張り裂けそうだ」と話した。

クリニックの前で中絶反対と抗議し続ける集団から患者を守りながら、その出入りに付き添い続けてきた人たちは、厳しい暑さの中、まとまって抱き合った。「この国はまだ人間のことを、女性のことを大事にしてくれるかと思っていた」と、付き添い係のリーダー、キャレンさんは話した。

staff at the clinic in Little Rock called women to tell them their appointments were cancelled

クリニックの外では、中絶反対派が祝った。

「警告する!」。最高裁判決について知らないままクリニックの駐車場に車を止める人たちに、反対派の1人がこう怒鳴った。

「この罪深い場所、この不正の場所、この悪の場所から立ち去りなさい」

アーカンソー州と同様に、用意していたトリガー法を直ちに施行したルイジアナ州のニューオーリーンズでも、中絶手術を提供する女性健康ケアセンターが判決を受けて診療を中止し、スタッフは帰宅した。ルイジアナ州ではこのケアセンターを含め、中絶手術が受けられる場所は3カ所しかなかった。

訪れる女性たちの付添人を続けてきたボランティアのリンダ・コッカーさんはクリニックの外でBBCに対して、裕福な女性は今後も別の州で中絶手術を受けられるが、それができない貧しい女性たちが「裏道の」違法な中絶手段に頼らざるを得なくなるのだと話した。他方、中絶反対の活動を続けてきたビル・シャンクス牧師はクリニックの前で、「お祝いの日」だと話した。

US abortion states
Presentational white space

アメリカで女性に中絶手術を提供してきた医療団体「プランド・ペアレントフッド」の調査によると、妊娠可能年齢の女性約3600万人が、今回の最高裁判決によって、中絶手術を受けられなくなるという。

  • ケンタッキー、ルイジアナ、アーカンソー、サウスダコタ、ミズーリ、オクラホマ、アラバマの各州では、最高裁判決を受けて中絶禁止法が施行された
  • ミシシッピー、ノースダコタ両州では、州司法長官の承認を経て中絶禁止法が施行される
  • ワイオミング州では5日後に施行。ユタ州では州議会の承認を経て施行される
  • アイダホ、テネシー、テキサス各州では30日後に施行される

首都ワシントンの最高裁前では、判決の内容が明らかになると、集まっていた中絶反対派から歓声が上がった。しかし、判決に抗議するデモがアメリカ各地50以上の都市で予定されている。

アメリカでは中絶権の是非が長く議論されてきたが、米ピュー研究所が今月発表した調査結果によると、アメリカの成人の61%が中絶は常にあるいはほとんどの場合、合法であるべきだと答えている。常にほとんどの場合、違法であるべきだと答えたのは37%だった。

テキサス州サンアントニオで活動する中絶反対派のテリー・ハーディングさんは、同市郊外で、望まない妊娠をした女性が中絶を選ばずに済むよう支援する緊急妊娠センターを運営している。今回の最高裁判決を受けて、判決に反対する人たちが自分たちのセンターを標的にするかもしれないと、安全対策をまとめているという。

「すべての人間の命は守られなくてはならない」と、ハーディングさんはBBCに話した。バイデン大統領が最高裁判決を批判する様子をテレビで見ながら、ハーディングさんは「まだ生まれていない者の人間性を私たちが認めるという、そのことのあらわれだ」と続けた。

Joe Biden giving an address

画像提供, Getty

バイデン大統領は最高裁判決について、女性の健康と命を危険にさらすもので、「極端な思想が具体化した、最高裁による悲劇的な過ち」だとも述べた。

バイデン大統領は報道陣を前に、中絶が制限されている州の女性が、中絶を認める他の州へ移動する「その基本的な権利を、私の政権は守る」と述べ、女性が移動する権利に州政府が介入することは認めないと話した。さらに、女性が今後も確実に避妊具や、妊娠10週までの妊娠を終了させる経口中絶薬(流産治療に使われる)を入手し続けられるように対策を講じるとも述べた。

今回の判決は、約半世紀前に連邦最高裁が定めた判例を、同じ最高裁が自ら覆したことになり、きわめて異例。今後、アメリカ国内で激しい論争と政治対立を引き起こすとみられている。

中絶をただちに禁止しようとする各州とは逆に、カリフォルニア、ニューメキシコ、ミシガン各州などでは与党・民主党所属の州知事が、「ロー対ウェイド」判決が覆された場合に備えて、人工中絶権を州の憲法で保障する方針を発表している。さらに、カリフォルニア、ワシントン、オレゴン各州の知事は、中絶手術のため他州から移動してくる患者の保護を約束した。

中絶に関する世論が割れている、ペンシルヴェニア、ミシガン、ウィスコンシンなどの州では、中絶の合法性が選挙ごとに争われる可能性が出ている。他の州では、中絶を認める州に個人が移動して中絶手術を受けたり、郵便で中絶薬を取り寄せたりすることの合法性などが、個別に争われる可能性がある。

「生きるための2度目のチャンスを与えられた今、生命の神聖性がアメリカの全ての州の法律に復帰するまで、我々は安穏としてはならないし、手を緩めてはならない」と、副大統領はツイッターで書いた。

ペロシ氏は、「アメリカの女性たちは今日、自分の母親よりも自由が制限されている」、「この残酷な判決はとんでもないもので、あまりにつらすぎる」などとツイートした。

判決への流れ

アメリカでは、1973年の「ロー対ウェイド」事件に対する最高裁判決が、女性の人工中絶権を認める歴史的な判例として約半世紀にわたり維持されてきた。そのため、中絶に反対する勢力と、女性の選択権を堅持しようとする勢力が長年、この判決をめぐり争ってきた。

「ロー対ウェイド」事件について当時の最高裁は、賛成7、反対2で、胎児が子宮外でも生きられるようになるまでは女性に中絶の権利があると認めた。これは通常、妊娠22~24週目に相当する。これを受けてアメリカでは約半世紀にわたり、妊娠初期の3カ月間は中絶の権利が全面的に認められてきた。妊娠中期の中絶には一定の制限がかけられ、妊娠後期の中絶は禁止されてきた。

しかし、最近では一部の州が独自に、中絶を制限もしくは禁止する州法を成立させていた。

今回の判決に至った訴訟は、妊娠15週以降の中絶を禁止するミシシッピー州法について、同州保健当局(代表:トマス・ドブス州保健長官)と同州内の「ジャクソン女性健康オーガニゼーション」が合憲性を争っていたもの。下級審では、州法は違憲とする判決が出ていたが、最高裁が6対3で違憲ではないと判断した。これによって、最高裁は実質的に、中絶権への憲法の保障を終了させた。

protesters outside the home of supreme court justice brett kavanaugh

画像提供, Reuters

最高裁判事9人のうち、保守派のサミュエル・アリート、クラレンス・トーマス、ニース・ゴーサッチ、ブレット・キャヴァノー、エイミー・コーニー・バレット各判事の5人は、明確に「ロー対ウェイド」判決を覆す判断に賛成した。このうち、ゴーサッチ、キャヴァノー、コーニー・バレット各氏は、ドナルド・トランプ前大統領に指名され就任した保守派。

穏健派とされるジョン・ロバーツ最高裁長官は、別の意見を書き、ミシシッピー州の中絶禁止は支持するものの、それよりさらに踏み込んだ判断には反対したと述べた。

対して、反対意見を書いたリベラル派は、スティーヴン・ブライヤー、ソニア・ソトマヨール、エレーナ・ケイガン各判事。3人は、「この法廷のために悲しみ、さらにそれ以上に、憲法による基本的な保護を本日失った何百万人ものアメリカの女性のために悲しむ」と書いた。

半世紀近く維持されてきた最高裁判例を最高裁自身が覆したことで、過去の最高裁判例が保障してきた権利についても同様の対応があるのではないかと、懸念が高まっている。

賛成意見を書いたトーマス判事は、「将来的には、この法廷のこれまでの実体的適正手続きの先例をすべて再検討すべきだ。これには、グリスウォルド、ローレンス、オバージフェルも含まれる」と書いた。グリスウォルド、ローレンス、オバージフェルとは、3つの画期的な判例の名前で、避妊の権利の保障、ソドミー(肛門性交)禁止の撤廃、同性婚の合法化に、それぞれつながった。

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