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Tuesday, March 15, 2022

女児死亡で母親再審無罪 取り調べ違法 大阪府のみに賠償命令|NHK 関西のニュース - nhk.or.jp

27年前、大阪・東住吉区で小学生の女の子が死亡した火事をめぐり、再審=やり直しの裁判で無罪が確定した母親が「警察官に精神的に追い詰められ、うその自白をさせられた」と訴えた民事裁判の判決で、大阪地方裁判所は、警察官の取り調べは明らかに違法だとして大阪府に1200万円余りの賠償を命じました。

平成7年、大阪・東住吉区の住宅が全焼し、11歳の女の子が死亡した火事では、母親の青木惠子さん(58)が、放火や殺人などの罪に問われ、無期懲役の刑で服役しましたが、平成28年に裁判がやり直され、無罪が確定しました。
青木さんは警察官に精神的に追い詰められ、うその自白をさせられ、20年以上、不当に拘束されたなどとして、国と大阪府に賠償を求める民事裁判を起こしました。
15日の判決で、大阪地方裁判所の本田能久 裁判長は「担当の警察官は青木さんに娘の写真を見せて助けられなかったことを責め続け、吐き気や悪寒が続いても配慮せず、長時間、大声を出してさらに厳しく取り調べた。その結果、虚偽の自白をさせ、取り調べは明らかに違法だ」と指摘しました。
また、民事裁判の法廷で、この元警察官が青木さんの前で「今でも犯人だと思う」と証言したことについても、「青木さんを傷つけただけでなく、根拠のないひぼう中傷を招きかねない」と批判し、大阪府に1224万円余りの賠償を命じました。
一方、起訴した検察の責任を問われた国への訴えは退けました。

【旗だし】。
午後2時に判決が言い渡されると大阪地方裁判所の正門前では、青木さんの代理人の弁護士らが「勝訴」、「国の責任を認めず」と書かれた紙を掲げました。

【原告側の会見】。
判決のあと、原告の青木惠子さん(58)が、大阪・北区で記者会見を行いました。
判決では、当時の警察の捜査の違法性が認められた一方、起訴した検察の責任を問われた国への訴えについては退けました。
これについて、青木さんは「わが子を保険金目当てで殺したとされたことが、私にとってはいちばんつらかったし苦しかった。大阪府警の違法性を認め、裁判での元警察官の発言についても私を傷つけたというふうに認めてもらえたのは良かったです。しかし、国の違法性を認めないという結果については本当に許せません」と述べました。
また、亡くなった娘に伝えたいことを問われると、「きのうも娘のお墓参りにひまわりを持って行き、国の違法性も認められるように祈りました。しかし、その思いを果たすことができなかったので、また、控訴して闘うから、応援してねと伝えたい」などと述べ、控訴する方針を示しました。
青木さん代理人の加藤高志 弁護士は、「警察の取り調べの違法性を認め、その被害が甚大で損害賠償の算定にも反映させたことは評価できる。ただ、検察官が起訴するまでに把握できなかったなどとしてその責任を認めないのは、警察が違法な取り調べをしていても検察官は知らないふりをしていればいいと思われてしまう可能性があり、非常に問題のある判決だ」と指摘しました。

【大阪府警コメント】。
判決を受けて、大阪府警察本部の田畑修治 監察室長は「判決書の内容を精査したうえで、今後の対応を決めたい」とコメントしています。

【大阪地検コメント】。
判決について、大阪地方検察庁の八澤健三郎 次席検事は「基本的には国の主張が認められたものと考えている」というコメントを出しました。

【法務省コメント】。
判決について法務省は「当時の検察官の活動が違法ではないと判断されたものと受け止めている」とコメントしています。

【判決について識者は】。
元刑事裁判官で法政大学法科大学院の水野智幸 教授は、15日の判決で警察の取り調べが違法だったと認められたことについて、「警察の取り調べにおいて、うそを伝えるとか、心身が弱っている容疑者につけ込むような取り調べ方法が違法であるのは当然で、賠償を認めたのは相当だ」と評価しました。
一方で、起訴した検察側の責任が認められなかったことについては、「客観的な証拠が無い中で、犯行の自白と否認が繰り返されるような供述状況の場合は、自白の評価は慎重に行うべきであるのに検察はしていなかった。一切、検察の違法がなかったとしたことは疑問だ」と指摘しました。
そのうえで、えん罪を生まないためには、「警察や検察は、容疑者の意見に耳を傾けて、常に自分たちの見立て以外の可能性があることを認識し、取り調べにおける自白に頼らず、客観証拠の収集に力を注いでほしい」と話しています。

【拘束20年裁判の経緯】。
無実の罪で20年以上拘束された青木惠子さん(58)は違法な取り調べでうその自白をさせられたとして、国と大阪府の責任を明らかにしてほしいと訴えています。
27年前(平成7年)、大阪・東住吉区で住宅が全焼し、当時、小学6年の娘のめぐみさん(当時11)が逃げ遅れて死亡しました。
火事からおよそ2か月後に青木さんは、保険金目的で娘を殺害したとして放火や殺人などの罪で逮捕されました。
警察官の取り調べでは、娘の写真を見るように首を押さえつけられたうえ、「鬼のような母親だ」などと繰り返しどなられたといいます。
さらに、警察官から「助けられなかったということは、殺したことも同じだ」と、青木さんがいちばん悔やんでいる苦しいことを言われるなどして精神的に追い詰められ、うその「自白」をさせられたと訴えています。
起訴された青木さんは、裁判では一貫して無罪を主張しましたが、平成11年、大阪地方裁判所が無期懲役を言い渡して、その後、刑が確定したため、再審=裁判のやり直しを求めました。
逮捕から20年以上がたった平成28年、ようやく再審が開かれ、大阪地方裁判所は「警察官が虚偽の自白をさせた。火事は自然発火の可能性も否定できない」と指摘して青木さんに無罪を言い渡しました。
無罪が確定した青木さんは、およ2か月後、警察官から精神的に追い詰められる違法な取り調べを受けたことでうその自白をさせられ、不当に20年以上、拘束されたなどとして、国と大阪府に1億4000万円余りの賠償を求める民事裁判を大阪地方裁判所に起こしました。
裁判で国と府は「違法な捜査はなかった」と主張し、かつて取り調べをした警察官が青木さんの前で「今でも犯人だと思う」と証言し、さらに傷つけるような場面もありました。
判決を目前にした去年11月、裁判所は和解案を示し、青木さんは完全に無罪だとしたうえで、国と府に対して、えん罪事件の再発防止に取り組み、和解金を支払うよう勧めました。
和解案では、警察官の「今でも犯人だと考えている」という証言についても「到底、採用できない」とはっきりと否定しました。
しかし、国と府が応じなかったため、国と大阪府に賠償の責任があるかどうかの判断は裁判所に委ねられ、判決が言い渡されることになりました。

【民事裁判の争点は】。
無罪が確定した青木さんが国と大阪府に賠償を求めている民事裁判では、青木さんをうその自白に追い込んだ警察の取り調べが違法だったかどうかが争点になっています。
民事裁判で、青木さんは、警察の取り調べで繰り返しどなられたり、なぜ娘を助けなかったのか問い詰められたり、精神的に追い詰められる違法な取り調べを受けたことでうその自白をさせられたと訴えています。
一方、大阪府は警察の責任について、「大きな声で質問したのは取り調べで青木さんが合理的な説明をしなかったので供述を促すためであり、娘を助けられなかったことに関する質問も違法な取り調べとはいえない」などと主張しています。
また、起訴した検察の責任を問われている国は「警察が違法な取り調べを行ったとうかがわせるような報告は見当たらず、本人の意思による自白かどうかを疑うべき事情はなかった。住宅の焼損状況などから、当時、青木さんが仮に自白していなくても放火に関わったと考えることが合理性を欠くとはいえない」などと主張しています。

【再審国賠訴訟はさまざま】。
再審=やり直しの裁判で無罪が確定したあと、取り調べで「自白」を強要されたなどとして国や県に賠償を求める民事裁判ではさまざまな判断が示されています。
55年前(昭和42年)に茨城県利根町布川で男性が殺害されたいわゆる「布川事件」では、無期懲役の判決を受けた男性について、44年後の平成23年に再審で無罪が確定しました。
この事件の捜査をめぐり、自白を強要されたなどと男性が訴えた民事裁判で、2審の東京高等裁判所は去年8月、警察官と検察官に違法な取り調べがあったと認めて国と県に対しておよそ7400万円余りの賠償を命じ、男性の勝訴が確定しました。
また、平成14年に女性に乱暴をしたとして有罪判決を受けたあと、再審で無罪が確定した富山県の男性が「取り調べで自白を強要された」などとして、国と県に賠償を求めた裁判で、富山地方裁判所は平成27年、警察官の取り調べの違法性を認め、県に対し、およそ1960万円の支払いを命じました。
一方、警察官の違法な取り調べについて検察官が認識していたとは認められないとして、国の責任は認めませんでした。
昭和30年に宮城県で4人が殺害されたいわゆる「松山事件」で死刑判決を受けたあと、やり直しの裁判で無罪が確定した男性とその母親が国と県に賠償を求めた裁判では、仙台高等裁判所は平成12年、「捜査や裁判の進め方が違法であるとはいえない」として、訴えを退けています。

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