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Friday, March 11, 2022

電磁波で電力を伝送するという夢の始まり(前編) - EE Times Japan

19世紀に発見された電磁誘導と電磁波

 半導体のデバイス技術とプロセス技術に関する世界最大の国際学会「IEDM(International Electron Devices Meeting)」が昨年(2021年)12月11日〜15日に米国カリフォルニア州サンフランシスコで開催された。同年12月17日以降は、インターネットを通じてオンデマンドで録画済みの講演ビデオを視聴可能になった。

 IEDMは12日に「ショートコース」と呼ぶ技術講座をプレイベントとして実施した。その1つである「Emerging Technologies for Low Power Edge Computing (低消費エッジコンピューティングに向けた将来技術)」を共通テーマとする6件の講演の中で、「Practical Implementation of Wireless Power Transfer(ワイヤレス電力伝送の実用的な実装)」が極めて興味深かった。講演者はオランダimec Holst Centreでシニアリサーチャー、オランダEindhoven University of TechnologyでフルプロフェッサーをつとめるHubregt J. Visser氏である。

 そこで本講演の概要を本コラムの第347回から、シリーズでお届けしている。なお講演の内容だけでは説明が不十分なところがあるので、本シリーズでは読者のご理解を助けるために、講演の内容を適宜、補足している。あらかじめご了承されたい。

講演「Practical Implementation of Wireless Power Transfer(ワイヤレス電力伝送の実用的な実装)」のアウトライン。直訳すると「1. はじめに」「2. 誘導型ワイヤレス電力伝送」「3. 放射型ワイヤレス電力伝送の歴史(黎明期)」「4. 放射型ワイヤレス電力伝送の歴史(現代)」「5. 放射型ワイヤレス電力伝送の基礎」「6. レクティナ」「7. 放射型ワイヤレス電力伝送の応用例」「8. 将来への展望」となる[クリックで拡大] 出所:imecおよびEindhoven University of Technology(IEDMショートコースの講演「Practical Implementation of Wireless Power Transfer」のスライドから)

 前々回前回は、ワイヤレス電力伝送の基本原理を解説するとともに、誘導型ワイヤレス電力伝送の歴史を前後編で簡単に紹介した。

 今回からはワイヤレス電力伝送の歴史を振り返る。講演のアウトラインだと、「3. 放射型ワイヤレス電力伝送の歴史(黎明期)」に相当する部分になる。「電磁誘導」と「電磁波(および光)」が伝送(給電や送電、充電)の2大原理であることは既に述べた。電磁誘導と電磁波のいずれも、19世紀に電磁気に関する研究が著しい進歩を遂げる中で生まれた。

電磁誘導は3人の研究者が独立して発見

 早かったのは電磁誘導現象の発見である。西暦1830年前後に3人の研究者が別々に見つけたとされる。電磁誘導の発見で最も有名なのは英国のマイケル・ファラデー(Michael Faraday、1791年9月22日生〜1867年8月25日没)だろう。いわゆる「ファラデーの電磁誘導の法則」で知られる。ほかの2人は米国のジョセフ・ヘンリー(Joseph Henry、1797年12月17日生〜1878年5月13日没)とイタリアのフランチェスコ・ザンテデスキ(Francesco Zantedeschi、1797年8月20日生〜1873年3月29日没)である。

マクスウェルの理論的予想とヘルツの実験的証明

 ファラデーの電磁力に関する研究業績を発展させ、英国(スコットランド)のジェームズ・クラーク・マクスウェル(James Clerk Maxwell、1831年6月13日生〜1879年11月5日没)は1864年に電磁波の存在を理論的に予想した。その理論式は、いわゆる「マクスウェルの方程式」で知られる。マクスウェルは、電磁波の伝搬速度が光の伝搬速度と同じであることも理論的に導いていた。

 1864年に理論的に存在が予想された電磁波を実験的に証明したのは、ドイツのハインリヒ・ルドルフ・ヘルツ(Heinrich Rudolf Hertz, 1857年2月22日生〜1894年1月1日没)である。ヘルツは1886年〜1888年に電磁波の伝搬に関する一連の実験を実施し、電磁波が空間(大気中)を伝わることを確認した。ヘルツはまた、難解で複雑だったマクスウェルの方程式を簡略化したことでも知られる。

ヘルツの肖像(左上)と電磁波の送受信実験装置(左下)、電磁波の送受信実験回路(右)。大電力の送信機(図の左側)で発生した電磁波(放電)を右側のギャップ付きコイル(図の右側)で受信した。コイルのギャップに火花が生じることにより、電磁波が伝わったことを確認した[クリックで拡大] 出所:imecおよびEindhoven University of Technology(IEDMショートコースの講演「Practical Implementation of Wireless Power Transfer」のスライドから)
ワイヤレス電力伝送の基礎を作った主な業績(一部のみ)。筆者の調べによる(Visser氏の講演スライドではない)[クリックで拡大]

(後編に続く)

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