アメリカのバイデン大統領は9月20日、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、11月上旬よりアメリカに入国する外国籍の成人に対して、ワクチン接種完了を義務付ける新政策を発表した。
これは、国ごとにかけていた入国規制の解除を意味する。つまりパンデミック以降、入国を認めていなかった国(シェンゲン協定圏内の欧州26カ国、イギリス、アイルランド、ブラジル、南アフリカ共和国、インドなど)からも、ワクチン接種を完了さえしていれば、再びアメリカに渡航できるということになる。
サミット取材のため、今年6月アメリカから渡航したジュネーブの街並み。
今年、6月の出張でアメリカからスイスに渡航した際、アメリカへの帰路で大変な経験をした筆者(ワクチン接種済み)は、このニュースを聞き素直に喜んだ。行きは問題なかったが、新型コロナウイルスの入国規制をするCDC(米疾病予防管理センター)のガイドラインに引っかかってしまった。アメリカへの特例入国のために面倒な書類を作ったりして余分な時間もお金もかかるなど、再入国が大変手こずったからだ。
また、ワクチンを接種した理由のひとつに渡航がしやすくなるだろうという淡い期待もあったのだが、当時はアメリカでもスイスでも、接種証明書を提示する機会はそれほど多くなく、接種者にとってのメリットはあまり感じられない状況だった。唯一、スイス入国時のオプションとして、そして取材を行うプレスセンターで提示を求められただけだ。要は日常生活にしろ渡航にしろ、あまり接種証明書を携帯するメリットがない状態がしばらく続いた。
しかし新型コロナウイルスに関する世界の情勢は刻一刻と変わっている。いまでは、まるで印籠と化したワクチン証明書の掲示を、いたる所で求められる。
ニューヨークでは8月より都市として全米で初めて、接種完了者のみ屋内飲食と屋内アクティビティ施設の利用を許可する施策を開始し、今月13日より罰則化もスタート。レストランやバー、博物館、公園内の映画イベントなどさまざまな場で、CDC発行の紙製の接種証明書もしくはスマホにインストールした州発行のワクチンパスポート(エクセルシオール・パス)の提示を求められるようになった。
そして接種証明書さえあれば、これからは国を跨ぐ移動もしやすくなるということだ。もちろんこれまでと同様に、入国に際して新型コロナウイルスの陰性証明書の提示や、渡航先の規制、隔離措置などに従う必要はある。しかしながら、無事に入国できるか否かといった、余計な心配事やストレスがひとつ減った。
接種が進むアメリカ側の報道はどれも歓迎ムードだ。今回の報道にしても、入国規制の「解除」や「緩和」、入国を「認める」などといったポジティブ面にフォーカスする論調が目立つ。
● The US Is Lifting Its Travel Ban. Who Is Allowed to Visit?「米国は渡航禁止令を解除。 来米できるようになるのはどんな人?」 (ニューヨークタイムズ)
● US to ease travel restrictions on fully vaccinated foreign visitors 「米国は、ワクチン接種完了の外国人訪問客への、渡航制限を緩和」(CNN)
● US to drop travel ban for vaccinated international travelers starting in early November「米国は11月初旬から、ワクチン接種済みの外国人訪問客に渡航禁止令を取り下げ」(USA トゥデイ)
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旅好きの日本人にとって、ワクチン義務化は迷惑?
一方で、この規制緩和を歓迎できない人々もいる。未接種者の中にはワクチンを打てない人、打つ予定のない人もまだ一定数いる。そして日本は、これまで接種済みか否かに関わらず、アメリカ入国が認められてきた。よって未接種者にとっては、これまでなかった障壁がひとつ増えたということになる。
メディアのトーンも「外国人旅行者にワクチン義務化」「未接種者への締め付け」のような文言が目立つ。
旅好きの日本の人々からは、「問題なし」(接種済み)とする意見がある中、「アメリカには今後行かなくてけっこう」(未接種者)、「出張で行く必要がある場合、どうなるのか不安」(未接種者)、「海外にはまだ数年行けそうにないから、その分国内旅行にお金をかけようかな」(接種歴は不明)など、嘆息や懸念の声も聞こえてくる。
屋内活動でのワクチン接種義務はフランスなどでも行われているように、どの国もワクチンを多くの人に打ってもらいパンデミックを1日でも早く終息させようとしている動きの中で、接種済みの人への「メリット」が優先されている状態だ。
そして、ワクチン接種義務化はおそらくアメリカのみならず、世界中で同様の動きが広がると見られている。ワクチンを打ちたくても打てない人にとって不平等な世界、生き辛い世の中になってはならない。そのような人々へ、世界のコロナ対策としてどのような救いの手が差し伸べられるだろうか。
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