折り重なる変化を前にして
初めに、本書の構成をあげておこう。 第1章 東京から考える──アーバン・スタディーズという冒険 第2章 だらだら広がる都市の秘密──東京はいかにして東京になったのか【歴史】 第3章 都市はメガイベントで輝いたのか──出来事から考える【イベント】 第4章 一極集中のオモテとウラ──産業・仕事・格差【経済・階層】 第5章 奪われる東京──「空間争い」の時代に【空間】 第6章 「東京政治」の溶解と再生──責任ある知事がなぜ現れなかったのか【政治】 第7章 都市に出来事を取り戻す──社会が再び動き出す都市へ 著者自身が言葉にするのも何だが、都市の広がりをとらえる著作としてオーソドックスな構成と言ってよい。歴史、経済、政治、空間、社会、文化、どれも都市を論じる場合には欠かせない切り口と言える。その通りではあるのだが、ここに本書執筆に際しての最大の困難もあった。大きく展開してきた都市の研究は、もはや特定の学問分野には収まらない。 したがって、包括的な視点から都市を論じようとする場合には、分業により複数の書き手が分担しながら取り組むことが一般的となった。しかし本書は当初から単著という条件で執筆が準備されていた。筆者の専門分野に限定して学術的により深く掘り下げるという選択肢も確かにあり得た。 だが結果的に本書では、東京という都市をその全体性という面にこだわりながら論じるという当初の方針を貫くこととした。その背景には、次のような問題意識があった。 人間の暮らす「世界―環境」は、今日大きく再編されつつある。グローバル化、ネット社会の拡大、格差・貧困問題の深刻化、民主主義とガバナンスの危機、そして突然のパンデミック。重層する変化の下で、新しい「世界―環境」はどのような形をとりながらその姿を現しつつあるのか。このことが改めて問われ直しているのが現代である。 とても一冊の作品で答えを出せるような課題ではない。しかし、より俯瞰的な視点から変化の趨勢を見通す作業がいまは強く求められている。そこで本書では、個別分野の成果にも学びながら、しかし基本的には、大都市の今日的課題がどこにあるのかを、歴史、経済、政治、空間、社会、文化などの領域を横断しながら自分なりに探究する試みに挑戦することとした。 対象は東京に限定した。その上で、20世紀初めから21世紀にかけての変容を可能な範囲で振り返りながら、モノ―ヒト―ココロを横断するさまざまな断片的な出来事の累積の上に生み出されてきた現時点の都市的課題を、具体的なデータと調査・観察をもとに、撮りためた写真も用いながらなるべく分かりやすく描き出すことを心がけた。限られた紙幅の下では言葉足らずは避けられなかった。また著者の能力を超えた試みであったことも否定できない。だが、多少なりとも一貫した都市像の呈示に近づく努力を重ねられたことは一つの成果であった。
からの記事と詳細 ( 新しい「始まり」の東京を考えるために――『都市に聴け――アーバン・スタディーズから読み解く東京』執筆を終えて(Book Bang) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース )
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