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Friday, August 21, 2020

村上虹郎×芋生悠×外山文治監督「これからが始まりだ」──映画『ソワレ』インタビュー【後篇】 - GQ JAPAN

【前篇を読む】村上虹郎×芋生悠×外山文治監督「現場で一緒に命を燃やした日々」

映画の“余白”を楽しむために

──主演のおふたりの役は難しい役ですよね。たとえば村上さんについて言えば、売れない役者という役で。

村上:そうですね。あのときはまだ『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)なんかも公開されていなかったので、役者が役者の役をやる映画の最新版を観ていなかった。僕のなかには『バードマン』(『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』2014)とかのイメージはちょっとありましたけどね。

翔太のプロフィール作りの段階ではいろいろ迷って、監督にめちゃめちゃたくさんメールで聞いたんです。「彼は浅野いにおは好きですか」とか(笑)。俳優として浅野いにお原作の作品に出たいと思ってるんじゃないかとか(笑)。

映画『ソワレ』より

映画『ソワレ』より

外山:でも、ちょっと付け足すと、売れない役者の若者に見えたらゴールなのかというと全然そういうことじゃない。翔太は、自分の“核”がない人間なんですよね。掘り下げたって、最終的には何も「ない」。それを掘り下げて作らなきゃならないというのは、相当大変だったろうと思います。

村上:翔太はタカラと向き合うことで、自分のことを何もわかってないのだと暴かれます。それまで彼の周りには社会があって、周りの人を見て悔しがったりきつい思いをしたりしていたんですけど、タカラをとおして初めて自分が見えてくる。

主演の村上虹郎

芋生:タカラのほうは逆に、田舎の狭い世界にいて社会を見ていない。そこに翔太が現われる。翔太と一緒に逃げていく時間は、苦しいこともあるし、恐怖から逃げているような感じもしましたが、すごく幸せな時間でもありました。いまでも思い出して、幸せだったなあって思うことがあります。タカラのなかには幼少期からのトラウマがずっとあって、それによるあきらめもすごく強くあるんですけれど、それでも失っていない希望みたいなものも、小さいけれどある。それを守ってあげられたらと思いながら撮影に入りました。

映画『ソワレ』より

──先ほど「ソワレの意味は何ですか」とお聞きしたのですが、後半に登場する、夜の野外舞台で展開される幻想的なシーンを指しているのかなと考える観客も多いだろうと思います。ここは建築物の構造や水の使い方、照明など、とても印象的なシーンですね。

外山:ロケ地は和歌山県立近代美術館です。黒川紀章さんがデザインされていて、実際に水が流れる設計になっています。その先に舞台があり、そこで一夜の夢を見るわけですから、おっしゃるとおり「ソワレ」の意味と大きく関係しています。

外山文治監督

水の上をはだしで渡るのは、安珍・清姫の伝説にかけているわけですが、そのあとタカラが見る幻については、自分のなかではちゃんと意味づけされているし、ふたりにもそれは伝えているんですけれど、お客さんには、どういう意味なのかを一人ひとり考えてもらえればと思っています。いまの日本映画界では、作り手の思いを受け手に100パーセントそのまま伝えなければいけない、そうできない映画作りは稚拙だととらえられがちなんですが、お客さんが自由に受け取ることのできる余白が、映画には本来必要だろうと思うからです。

照明設計に関しては、照明の舘野(秀樹)さんと美術の山下(修侍)さんが、火を起こそうと提案してくれました。竹の灯篭はあの場にもとからあったのではなく、映画のためにスタッフがみんなで考えて用意してくれたものです。

映画『ソワレ』より

──印象的なシーンはほかにもたくさんあります。空き家で過ごす夜、ふたりの後ろでシルエットが踊りますね。

芋生:あそこは、わたしたちが芝居をしている後ろで、背格好の似たかたたちに踊ってもらいました。

外山:合成じゃないんですね。隣の部屋で別の人たちが動いてるのを、照明を使って、ふたりの影のように見せた。アナログな表現なんですけど、この作品はぬくもりみたいなものを出したほうがいいのではないかというのは、プロデューサーのこだわりでもありました。

映画『ソワレ』より

──プロデュースに名を連ねている豊原功補さんと小泉今日子さんは、現場とはどのように関わっていたのでしょうか。

外山:ほとんど毎日現場にいらしていました。車の送り迎えから弁当の片づけまで、何でもやってらっしゃいましたよ。

村上:通行止めとかしてたんです、小泉さんが。(移動撮影用の)レールもふたりで敷きはじめて(笑)。

──そこまで!(笑) では、演出や俳優の演技にはあまり介入されなかったということですね。

外山:見守ってくださってました。ただし、第一線でずっとやっていらっしゃる、しかも一流の演出家と一緒にものを作ってきたり、自分で演出もされてきたりしたおふたりなので、あのふたりを納得させるのは自分にとってひとつの勝負だと思っていました。おふたりと戦うと同時に、おふたりと一緒に戦っていた感じです。

芋生:わたしは『ソワレ』の前に舞台で、豊原さんから演出を受けたことがありました。そのときに厳しい言葉も必要な言葉もたくさんいただいていたので、あとはもう信頼してくださって、「思いっきりやってこい」みたいな感じでした。

主演の芋生悠

──ウェブサイトの『シネマカフェ』に昨年掲載された、この映画の製作に関連してのインタビューで、豊原さんは、日本映画をガラパゴス化させないこと、質を上げて世界と伍していくことについても語っていました。

村上:豊原さんと小泉さんが外山監督を選んだ理由も、たぶんそこにあるんでしょうね。西洋から学ぶことはたくさんあるけれど、戦う手段はそれじゃないってことに、監督はすごく若いころから気づいていたんだと思います。最初に短篇でご一緒したとき、そう感じました。目先のファッショナブルなことにはあまり興味がないんだろうな、それよりも、自分がやりたいことだけをずっと貫いてきたんだろうなと。

──エピローグ部分で稽古しているのはチェーホフの『桜の園』ですね。ちょっとアレンジされていますが。

外山:そうです。わたしが書いたものを読んでもらいました。タカラが働いていたのが「桜の園」という施設だというのが、ひそかにかかっています。それからもちろん、翔太とタカラのふたりにとって、「これからが始まりだ」という意味もこめられています。

映画『ソワレ』より

『ソワレ』
8月28日(金)より、テアトル新宿、テアトル梅田、シネ・リーブル神戸ほか全国公開
配給・宣伝:東京テアトル PG12+
© 2020ソワレフィルムパートナーズ
soiree-movie.jp

PROFILE
村上虹郎(むらかみ にじろう)
1997年3月17日、東京都生まれ。2014年、河瀨直美監督の『2つ目の窓』でデビュー。映画初主演を果たす。16年の『ディストラクション・ベイビーズ』(真利子哲也監督)でも鮮烈な印象を残し、翌年の綾野剛主演の『武曲 MUKOKU』(熊切和嘉監督)でその存在感を決定的なものとする。『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(17/廣木隆一監督)や ハナレイ・ベイ』(18/松永大司監督)でも唯一無二の個性を発揮。主演作『銃』(18/武正晴監督)では、原作である中村文則の純文学に拮抗する、噛みしめがいのある内面演技を披露。モノクローム映像にも映えるたたずまいで映画俳優としての風格を感じさせた。オダギリジョーの長編初監督作『ある船頭の話』(19)ではキーパーソンを演じるなど、その活躍は留まるところを知らない。待機作に『銃2020』(武正晴監督)『燃えよ剣』(原田眞人監督)、『佐々木、イン、マイマイン』(内山拓也監督)がある。外山文治監督とは17年の短編『春なれや』で顔をあわせている。

芋生 悠(いもう はるか)
1997年12月18日、熊本県生まれ。14年、「ジュノン・ガールズ・コンテスト」にてファイナリストに選ばれる。翌年、女優業をスタート。16年、『バレンタインナイトメア』(今野恭成監督)で映画デビュー。『マタードガス・バタフライ』(16/広瀬有紀監督)で映画初主演を飾る。『東京喰種 トーキョーグール』(17/萩原健太郎監督)や『斉木楠雄のψ難』(17/福田雄一監督)などでも印象的な役どころを好演。主な出演作に『恋するふたり』(19/稲葉雄介監督)、『左様なら』(19/石橋夕帆監督)、『37セカンズ』(20/HIKARI監督)などがある。公開待機作にヒロイン役を務めた『ハンド全力』(松居大悟監督)、柳楽優弥主演の『HOKUSAI』(橋本一監督)がある。豊原功補演出の「後家安とその妹」では舞台女優としての力量も発揮。大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」を始め、テレビドラマへの出演も多数。写真集に、初舞台「欲浅物語」の舞台裏を追いかけた「はじめての舞台」がある。

外山文治(そとやま ぶんじ)
1980年生まれ。福岡県出身。日本映画学校演出ゼミ卒。老老介護の厳しい現実を見つめた短編映画『此の岸のこと』(10)が海外の映画祭で多数上映され、「モナコ国際映画祭2011」で短編部門・最優秀作品賞をはじめ5冠を受賞。その後、シルバー世代の婚活を明るく描いた『燦燦-さんさん-』のプロットで「第六回シネマプロットコンペティション」のグランプリを獲得し、2013年に長編映画監督デビュー。「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。また、『わさび』(17)は「ロサンゼルス日本映画祭」最優秀短編映画賞を受賞し、『春なれや』(17)と17年に同時上映された『映画監督外山文治短編作品集』においてユーロスペースの2週間レイトショー観客動員数歴代1位を獲得した。

取材・文
篠儀直子(しのぎ なおこ)
翻訳者。映画批評も手がける。翻訳書は『フレッド・アステア自伝』『エドワード・ヤン』(以上青土社)『ウェス・アンダーソンの世界 グランド・ブダペスト・ホテル』(DU BOOKS)『SF映画のタイポグラフィとデザイン』(フィルムアート社)など。

村上虹郎さん
ジャケット ¥154,800(LEMAIRE / EDSTRÖM OFFICE ☎︎03-6427-5901)
パンツ ¥43,000(Acne Studios / Acne Studios Aoyama ☎︎03-6418-9923)
※すべて税抜き価格
その他 スタイリスト私物
スタイリング・望月 唯

芋生 悠さん
イヤリング ¥1,880、バングル ¥2,280、リング ¥2,680(すべて ROOM https://room-601.com)
サンダル  ¥7,400 (RANDA 06-6451-1248)
※すべて税抜き価格
その他 スタイリスト私物
スタイリング・末吉久美子

取材と文・篠儀直子、撮影・井上佐由紀

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August 21, 2020 at 04:00AM
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