Appleが今年6月、日本でも「Apple Music」の月額利用料を値上げすると発表した。対象は「学生プラン」のみ。値上げ幅は100円(480円→580円)である。既存ユーザーには8月下旬から新料金が適用されたが、この値上げは一見すると不可解だ。何しろ、お金に余裕がある社会人ではなく学生が対象で、値上げ幅がたった100円なのだ。だが、価格戦略の専門家の視点では、この値上げは「秀逸」であり、収益向上において効果的である。そう言い切れる要因を詳しく解説する。(プライシングスタジオ代表取締役 高橋嘉尋)
Apple Musicが“謎の値上げ”
世界各国で「学割のみ」価格変更
Appleが2022年6月、日本で音楽ストリーミングサービス「Apple Music」の値上げに踏み切った。
だが、今回の値上げ対象は学生プランのみ。値上げ幅も100円(月額480円→月額580円)とごく少額だ。
「Siri」による音声操作で楽曲を再生する廉価プラン「Voiceプラン」(月額480円)をはじめ、「個人プラン」(月額980円)、「ファミリープラン」(月額1480円)といった一般層向けプランの価格は変更しない。
Appleはこの“学割”の値上げを、オーストラリア、フィリピン、シンガポールなど11カ国で5月に行っていた。その後、米国・英国・カナダでも値上げに踏み切った。5月時点で、日本での値上げは未発表だったが、結局は約1カ月後に実施されたようだ(正式な時期は非公表)。
ただし、一口に学生ユーザーといっても、値上げの時期は顧客の種類(新規・既存)によって異なる。6月の値上げが適用されたのは新規顧客に限られ、既存顧客には8月21日以降に適用されたとみられる。
このように、既存顧客は値上げの対象外とし、新規顧客だけに新料金プランを適用する手法は専門用語で「Grandfather Pricing」という。一時的な場合と、永久的な場合があり、サブスクリプション業界では広く普及している。
これは筆者の肌感覚になるが、日本企業ほど既存顧客向けの価格を据え置く期間が長い(半年〜1年以上が多い)。一方、外資系企業のプライシングは大胆だ。今回のApple Musicのように、1~2カ月のスパンで既存ユーザーにも適用してしまう。
それにしてもAppleはなぜ、お金に余裕がある社会人ではなく、学生向けのプランだけを値上げしたのだろうか。
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