物音ひとつ立てず、身動きひとつせず。両目を閉じたまま勝負の刻を待っている。
23日午前10時、東京・将棋会館4階「雲鶴の間」。対局開始の合図を告げられても、先手の梶浦宏孝七段は初手を指さなかった。周囲からは断続的な駒音が響く中、一人だけ指さずに瞑想(めいそう)を続けている。
110秒ほど経過した後で目を見開き、ようやく右手の指先を飛車先の歩に伸ばした。
いつもの決め事だ。気持ちを鎮め、大切に一手目を指し始めること。心の中にあるのは、禅の言葉「百雑砕(ひゃくざっさい)」である。意味は「あらゆる雑念を木っ端微塵(みじん)に打ち砕く」こと。前週、26歳の青年は語っていた。
「ずっと変わらず大切にしている言葉です。対局開始から終了まで、完全に澄み切った心で指すことが究極の目標といえるのかもしれません」
名人を頂点とする順位戦。棋士たちはどんな思いを胸に戦っているのでしょうか。彼らの純粋な情熱を、純真な人情をインタビューで伝える連載の2回目です。棋士の数だけ物語はある――。
第81期名人戦・順位戦C級2組1回戦、高野智史六段(28)との一局。名人を頂点とする順位戦で全5クラスの最下級からC級1組への昇級を目指す8度目の戦いを始めた。
昨年11月、6歳年上の女性と結婚した。同17日の「将棋の日」に婚姻届を出したことが「カジー(広く浸透している愛称)らしいよね」と棋士間でも話題になった。4月に式を挙げたばかりで、幸福な新生活を始めている。
「一緒に住み始めて半年くらいです。家庭を大切にすることはもちろんですけど、棋士は収入も変動するものなので、負けると家計に苦労をかけちゃうな、と思うことはあります。自分はあんまり使わない派なので大丈夫かな……とか思いつつ。健康にもより気をつけなきゃな、と思っています」
梶浦七段が将棋を始めたきっかけ、そして憧れ続ける棋士。さらに記事の最後には、この日の対局の結果についてもお伝えします。
伴侶となった女性は、対局中…
からの記事と詳細 ( 始まりはレジ横のマグネット盤駒 「伝説の記録係」梶浦宏孝の描く夢 - 朝日新聞デジタル )
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