兵庫県の明石の庶民の「ソウルフード」の代表格と言えば玉子焼(明石焼)だが、隠れた逸品が「きしめん」だ。明石駅前にある創業55年の専門店「都きしめん」には毎日午前11時になると、人が吸い込まれるように入っていく。きしめんと言えば、愛知県のご当地グルメではなかったか。一体なぜ、明石できしめんなのか。(松本寿美子)
明石駅構内の商業施設「ピオレ明石」東館にある都きしめん本店。透き通った黄金色のだしに沈む、薄く平らな麺。箸でつまみ上げて口に運べば、ツルツルッと軽やかなのどごし。店内は年配の夫婦や小さな子ども連れの家族らでにぎわっている。
地元の人たちにその魅力を聞いた。
70代の団体職員男性は「だしにトッピングの花がつおの味が合わさって漂う香りが何とも言えない。明石で勤務していた20代、ほぼ毎日食べた。妻と出会ったのもその頃」。青年期の甘酸っぱい思い出とともに熱っぽく語る。
幼少期から親しんでいた60代の会社員女性は「優しい味でおだしをすっと飲んじゃう。子どものときも1杯平らげた。値段も優しいから、学生時代は明石に友人が来る度、ごちそうしてあげられた」とほほえむ。
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でもなぜ、明石できしめんだったのか。
経営会社「宮内一(みやうちいち)」の宮内正次社長(63)は「最初はスパゲティ専門店やったけど売れなくて」と明かす。スパゲティ店を展開する会社に勤めていた父の故・一(かずし)さんが1964(昭和39)年、明石駅に開業した商業施設「明石ステーションデパート」への出店を任されたという。
スパゲティは振るわず、業態替えを検討。施設内には既にうどん、そば、ラーメン店が営業しており、競合を避けて選んだのが、きしめんだった。
67年、京都が好きだった一さんが「都きしめん」と名付けて創業。1杯80円。本場の名古屋まで足を運び、製粉会社の協力で14種類の麺を試作した力の入れようだった。
当初、客の反応はいまいちだったが、一さんは「商売は牛のよだれ。まじめに長く、おいしいものを安く、お客さんに喜んでもらえることを続ければ、いつかは花開く」と気にしなかった。かくして、きしめんは明石の地に根付き、半世紀の歴史を刻んだ。
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長年続く秘訣(ひけつ)を、宮内社長は「お客さまの期待を裏切らないこと」と話し、創業時から「思い出し、また食べたくなる味」を追い求める。要となるだしは当時から変わらない。九州北部産のイワシ数種類が原料のうるめ節を使い、たつの市のメーカー「ヒガシマル醤油(しょうゆ)」の淡口(うすくち)醤油を合わせる。
現在の価格は473円から。トッピングは、神戸の「鰹節(かつおぶし)のカネイ」製にこだわった花がつおが1番人気。ワカメや野菜天ぷらなど10種類が楽しめる。トマトきしめんやキムチきしめんなど期間限定のメニューもある。
市内に4店舗を構え、すっかり明石の食文化として花開いたきしめん。宮内社長は「お客さんのイメージを損なわない味で、ああやっぱりおいしかったと帰ってもらえるように続けていく」と、先代の思いを受け継ぐ。
■本場・名古屋もエール
薄く平たいきしめんは、だしがよく絡み、食べやすい。本場・名古屋では徳川家康の時代から400年を超える歴史があるといい、調理の手軽さやアレンジの幅広さを売りに、全国的な普及を目指している。
名古屋できしめん店を展開する「角千(かどせん)本店」会長で「愛知県きしめん普及委員会」の加古守会長(78)は「ゆで時間がうどんの3分の1程度と短いため、待たせることなく、ゆでたてを味わってもらえる。平べったく、つゆの乗りもいい」と説明する。
パスタの一種フィットチーネに似ているからか、名古屋市の姉妹友好都市、イタリア・トリノでは好評だったという。「家でパスタソースと合わせてもおいしい。カレーにも合いますよ」とPRする。
名古屋流はだしにムロアジやサバ、たまり醤油(しょうゆ)を使い、花がつおと油揚げ、ホウレンソウ、ネギをのせるという。加古会長は明石市の都きしめんを「遠方でも親しまれ、ありがたい」と語る。
からの記事と詳細 ( 明石でなぜ「きしめん」? 玉子焼に負けない隠れソウルフード 始まりはスパゲティ専門店 - 神戸新聞NEXT )
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