夏はいつから始まるか、生き物たちが話し合っている。ツバメは自分たちが南の国からやってきた時と主張するが、「早すぎる」と却下。入道雲が出始めてからは「遅すぎる」と賛同を得られない。そこでドジョウが提案する◆〈ぼくも、目高(めだか)も鮒(ふな)も鯰(なまず)も、代かきと田植えが始まると、田んぼに入っていって、卵を産むんだ。だから、田植えを夏の始まりに〉。カエルやタニシ、糸ミミズも賛成して話はまとまった。NPO法人「農と自然の研究所」(福岡県)の宇根豊さん著『生きもの語り』は田んぼの一年を優しい表現で紹介している◆〈お百姓は稲をつくらず田をつくる〉。米は人間が作っているのではなく、田んぼが作っているという。人間にできるのは、稲が育つ田んぼを準備するだけ。田んぼとともに暮らした昔の人たちの思いが伝わる言葉である◆宇根さんは「かつての百姓は600種以上の生き物の名前を呼んでいたが、現代では200種の名前を呼べれば多い方」と書いている。社会の進歩によって多くの恩恵を受ける一方、失った最大のものが生き物へのまなざしと情愛だと指摘する◆佐賀平野は田植えの季節を迎えた。田んぼには水が張られ、カエルも音量を上げてくる。生き物の名前は指で数えるほどしか呼べないが、まなざしを向ける意識は持ちたい。夏の始まりである。(知)
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