南米発祥の音楽教育プログラム「エル・システマ」が国内では初めて、東日本大震災の被災地、福島県相馬市で始まって8年が過ぎた。毎年、音楽祭が開かれ、音楽の道をめざす受講生も出始めた。エル・システマのすそ野は、同じ被災地の岩手県大槌町などにも広がる。
「ピチカートは音が長く持続するように」
「ゆっくりの曲は重くなるけど、軽くいきたい」
11月29日、相馬市小泉の総合福祉センター。バイオリンやチェロなどを手にした小学生から高校生までの約30人が、指導に訪れた東京のバイオリニストの大澤愛衣子さんの指示を楽譜にメモをしていた。エル・システマの弦楽器教室だ。
子どもたちは「相馬子どもオーケストラ」のメンバー。発表会「子ども音楽祭in相馬」を今月27日に控え、練習に余念がない。以前の音楽祭をきっかけに教室に通う飯豊小2年の岡梨々花さん(8)は「合奏するのが楽しい」。
一般社団法人「エル・システマジャパン」(東京)は2012年5月、相馬市と協定を結び、中村第一小器楽部にバイオリンの専門家を派遣し、翌年には教室を始めた。
子どもオーケストラのほか、桜丘小合唱部と卒業生を中心に「相馬子どもコーラス」を結成。同年12月にに公演し、毎年、音楽祭を開いてきた。17年には管楽器教室も開講。この8年余で受講生は卒業生を含め計200人を超えた。
16年に岩手県大槌町、17年にベネズエラと交流がある長野県駒ケ根市にも、エル・システマの子どもオーケストラが発足。同年、東京に東京ホワイトハンドコーラスが生まれ、聴覚障がいのある子どもたちが「手歌」で音楽を創造する。
エル・システマジャパンの菊川穣代表理事は「被災地支援で始まった活動だが、文化の偏りや障がい者など、格差の問題に取り組んできた。仲間と一緒に音楽を作るプロセスが貴重だ」と、意義を語る。
来春には、コロナ禍で延期していた「世界子ども音楽祭」を、オンラインも活用して東京で開催する検討を進めている。
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弦楽器教室に今も毎週欠かさず通う卒業生がいる。佐藤花音さん(20)だ。宮城学院女子大(仙台市)の音楽科でバイオリンを学ぶ。中学2年から5年間、教室に通い、16年のドイツ公演ツアーにも参加した。
学んだのはみんなで演奏することの楽しさ。「子どもたちに音楽の楽しさを伝えたい」。大学で学んだ技術を子どもに伝え、相馬子どもオーケストラの指導者になりたいと考える。
教室の発足時から参加する相馬高3年の伊東七海さん(18)は音楽教師をめざし、大学進学を望む。
小学6年のころ、ソロ演奏を学ぶ機会があった。ソロとあって力を入れたことで、当時の指導者が「すごく練習したんだね」と褒めてくれた。それから練習が苦にならず、引っ込み思案の性格も変わった。
一時はプロの演奏家を夢見たこともあったが、いまでは「子どもたちに音楽が好きになるきっかけを作ってあげたい」と話す。
エル・システマは音楽の専門家を育てることが目的ではないが、指導者をめざす受講生も育ってきた。
ただ、オーケストラのメンバーは毎年70人前後と横ばい。コーラスは少しずつ減っている。弦楽器を指導する地元の須藤亜佐子さん(65)は「震災直後は、大変な思いをしている子どもたちに何かさせたいという親が多かった。今は部活動や受験などで忙しくなり、教室と両立できなくなっている」と心配する。
菊川代表理事は「大人や高齢者も加われる活動につなげ、幅広い世代が関われるようにしていきたい」。(佐々木達也)
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〈エル・システマ〉 40年ほど前にベネズエラで始まった音楽を通じた教育プログラム。家庭の経済状況や障がいの有無に関係なく、子どもたちは無償で参加できる。音楽の教え方に定めはない。青少年育成や犯罪防止が狙いで、今70以上の国や地域で採り入れられている。日本では、震災の被災地支援のため、2012年にエル・システマジャパンが設立された。
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