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Tuesday, May 5, 2020

新しい日常の始まり/『ニューヨーカー』を読む:#7 「THE LIVER」 | WIRED - WIRED.jp

トルーマン・カポーティーやレイチェル・カーソン、JD・サリンジャー…。『ニューヨーカー』誌は米国文学の屋台骨を支えてきた名文筆家たちの発表の場であり続けてきた。最近の誌面から厳選したストーリーを、作家の新元良一がひも解くシリーズ。

icon-picture ILLUSTRATION BY MAR HERNÁNDEZ, AMARENDRA ADHIKARI

文脈とは多義的なものだ。読み手が、そのときの境遇や心情にたぐり寄せ、いく通りの物語がひとりでに歩き出す。長年、子どもを望みながら授かることのなかった夫婦が、出産を通して多くのことを学び、成長していく物語もまた、行動や習慣、価値観の不可逆的な変化を強いる昨今の情勢と重なることで、意図せぬ文脈が浮かび上がる。

A woman waits to cross
 
icon-picture STEPHANIE KEITH/GETTY IMAGES
THE LIVER」|MATTHEW KLAM
『ニューヨーカー』誌の「40歳以下のベストフィクション作家20人」のひとりに選ばれた期待の作家であり、雑誌記者の顔をもつマシュウ・クラムによる短編小説。さまざまな試練を乗り越え待望の子どもを授かった夫婦が、小さな生命と向き合いながら多くのことを学び、“新しい日常”を受け入れていく姿が描かれる。『ニューヨーカー』誌2020年3月16日号に掲載。
新元良一|RIYO NIIMOTO

1959年生まれ。作家、コラムニスト。84年に米ニューヨークに渡り、22年間暮らす。帰国後、京都造形芸術大で専任教員を務めたあと、2016年末に、再び活動拠点をニューヨークに移した。主な著作に『あの空を探して』〈文藝春秋〉。ブルックリン在住。

本連載がスタートしてから、雑誌掲載の小説を読むタイミングについて考える機会が増えた。

それは『ニューヨーカー』誌の編集サイドの意図が、要因のひとつに挙げられる。政治、経済あるいは文化など、社会の状況に合わせるような作品を掲載し、読者に反応をうかがうといった場合である。

マシュウ・クラムの「THE LIVER」を通読し、これとは異なる理由で“読むタイミング”を感じた。編集サイド、さらには作者自身が意図するのではなく、読者サイドが置かれている状況によって、小説がその時々に呼応するように思われる、そんな体験を得た。

これを書いている4月も終わろうとする現在、世界各地で新型コロナウイルスが蔓延し、社会の多方面で甚大な影響を及ぼしている。その感染が原因で大多数の犠牲者が出て、日常生活や経済、文化も打撃を被り続ける先行きの見通せない事態が続く。

「THE LIVER」が掲載された2020年3月16日号の『ニューヨーカー』誌が出たのは、ニューヨーク市民の生活が一変する1週間前である。新型コロナウイルスの世界的な流行をニュースやSNSを通じ、米国市民は当時耳にし、国内の一部では感染者も出ていたが、ニューヨークに限っては、いまほど気持ちが落ち着かない状況ではなかった。

マシュウ・クラム|MATTHEW KLAM

小説家、雑誌記者。『ニューヨーカー』誌の「40歳以下のベストフィクション作家20人」をはじめ、グッゲンハイム賞フェローシップ、ロバート・ビンガム/PEN賞、ホワイティング作家賞、全米芸術基金を受賞。

だが間もなく、緊急事態宣言が出されると状況は激変した。日々慌ただしくなって、筆者はこの作品を掲載から1カ月あまりが過ぎようやく読んだが、おそらく雑誌が出たときなら違ったことを感じただろう、と思わせる印象をもった。まるで新型コロナウイルスによる日常の変化にどう対峙すべきなのか、この短編小説が指標を示してくれるように感じたのだ。

冒頭で小説の語り手は病室で、妻のキャシーのベッドの傍らにいる。本来は穏やかな陽気の春が出産予定だったが、吹雪が襲来した厳寒の夜、母親が2カ月早く産気づいたため、夫妻はここで分娩を待つこととなった。

緊急病棟に入ると、赤ん坊は逆子であるのが検査で判明した。担当した早産の専門医は、出産できたとしても、子どもの肺機能が正常ではない可能性が生じると言い、不安を煽るような話しかしない。さらに出産後にキャシーが自身の足で病室の壁を蹴りケガを負ってしまい、夫がおおわらわで、病室とナース・ステーションやほかの医務室との間を行ったり来たりする羽目となる。

幸いにも、子どもは肺機能に異常はない状態で誕生したが、予断は許されず、早産のため母親の元から離れた場所に連れて行かれる。さらにキャシーは負傷したのもあって、病室にいなければならないため、彼女に代わり、夫が生まれたてのわが娘の面倒を見る運びとなった。

自分の子でありながら、赤ん坊に対する夫の眼差しは、まだ愛情に溢れているというレヴェルまで達していない。無事生まれて安心はする一方で、小説の前半部分では、モノとは言わないまでも、小動物に近い存在のような視線を送っている。

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