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Thursday, May 27, 2021

ロールス・ロイスが送り出す3台のみの新しいオープンとは?──特別な「ボートテイル」に迫る! - GQ JAPAN

コーチビルディングの“今”と“昔”

ひと目見ただけで巨大で、そして高級であることが知れる1台のコンバーティブル・カー。ロールス・ロイスが生み出したこのモデルは「ボートテイル」と名付けられ、わずか3名の幸福なオーナーのもとに送り届けられることが決まっている。

さぞかし高価であるに違いないボートテイルは、いかにして生まれたのか? その背景を説明するには、まず、ロールス・ロイスが伝統的に得意としてきたコーチビルディングについて語らなければならない。

ロールス・ロイス社の職人が手作業で手がける。

コーチビルディングは文字どおりコーチ(馬車)を作ることを意味していた。そして、かつて馬車を製造していたコーチビルダーは自動車の発展とともに自動車用のボディを作るようになり、イタリア語でカロッツェリア、フランス語でカロッセリーとも呼ばれるコーチビルダーは、自動車の車体の設計・製造者を意味するようにもなった。

かつてロールス・ロイスは、シャシーとドライブトレインを組み合わせたローリング・シャシーを製造し、これにコーチビルダーが製作したボディを組み合わせて1台の自動車としていた。同様の手法は多くの高級車メーカーでも採り入れられていたが、コーチビルダーは同じボディを何台も生産することもあれば、顧客の要望に応えて1台限りの特別仕様車(ワンオフ・モデル)を作り出すことも少なくなからずあった。

1930年代に入るとコーチビルディングの文化は大きく開花し、超富裕層は、巨大なボディに大胆なデザインを施したワンオフ・モデルを競い合うようにして製作。その豪華さとセンスを、淑女やペットとともに披露して争うコンククールデレガンスと呼ばれるイベントが各地で開催されるようになった。

今回発表された「ボートテイル」は3台のみつくられる。

ところが、戦後になって高級車の世界にも大量生産の波が押し寄せると、次第にメーカーは標準ボディを社内で製作するようになり、コーチビルディングの文化も衰退。かつてのような壮麗なワンオフモデルは、ときたまモーターショーなどで展示される程度で、ほとんど製作されなくなったのである。

いっぽう、近年は“つるし”のクルマに飽き足らなくなった顧客の間で、カタログモデルを自分好みにモディファイするパーソナライゼーションやビスポークといったプログラムが好評を博すようになっている。

ボートテイルは4人乗り。

© Mark Fagelson Photography

実は、フェラーリを始めとするラグジュアリーカーブランドのなかには、表立ってではないにせよ、1台限定のワンオフやスペシャルボディを数台程度製作する“フューオフ”というプログラムを受け付けているところもあるが、ロールスロイスが2017年に“スウェプテイル”という名のワンオフモデルを発表したところ、これに対して予想を上まわる反響があったため、ロールス・ロイスは社内にコーチビルディング部門を設立することを決定した。この新部門で製作された1作目が、ここで紹介するボートテイルだったのである。

ボートをモチーフにした外装

ボートテイルとは、その名のとおり船のリアエンドを模したデザインのことで、1930年代から1960年代にかけてちょっとしたブームを巻き起こした。戦前のロールス・ロイスにもボートテイル形状のボディを架装したケースはあり、今回のコーチビルディングでは1933年に当時のファントムをベースに製作された1台を参考にしたとされる。

ここで新作“ボートテイル”の美しいスタイリングをじっくり観察してみることにしよう。

外装は船のリアエンドをモチーフにしたという。

© Mark Fagelson Photography

全長は約5.9m。

© Mark Fagelson Photography

まず、肝心のリアエンドは、左右のボディパネルを1点に集約させることなく、やや幅を持たせたボートテイル形状にしてテールライトなどを配置するスペースを確保した。そしてキャビン後方の上面はボートの甲板をイメージさせるウッドパネルでカバー。スポーティかつラグジュアリーな雰囲気を醸し出している。

このウッドパネルは、車体の中央付近を支軸として蝶の羽根のように持ち上げることが可能で、公開されたこのクルマの場合は、パネルの下にシャンペンやグラスのセットを収納できるように仕上げられている。

後部のウッドパネルは開けた状態。

© Mark Fagelson Photography

なかにはシャンペングラスなどが収められている。専用のテーブルも備わる。

© Mark Fagelson Photography

実は、このボートテイルをオーダーしたオーナーはアルマン・ド・ブリニャックのシャンペンをこよなく愛していて、シャンペンの収納スペースもアルマン・ド・ブリニャックのボトルをぴったりと収められるように加工されているとのこと。こうした、ひとりひとりの好みを厳密に反映できることも、コーチビルディングの大きな魅力といえる。

フロントマスクのデザインも印象的だ。パンテオンと称されるフロントグリルは、これまでのように独立した形状ではなく、フロントパネルに統合されて、ある種の未来感とカジュアル感を生み出している。いっぽう、ロールス・ロイスのもうひとつのトレードマークである丸形ヘッドライトはサイズをやや小ぶりなものにするいっぽう、その上部にはまるで人間の目のように見えるデイタイムランニングライトを配置。フロントマスク全体にユニークな表情を生み出している。

灯火類はフルLED。

© benedict campbell

生産台数は3台のみ

ボートテイルの全長はおよそ5.9mというから、同社のカタログモデルのなかでもっとも大きい「ファントム」エクステンデッドホイールベースに匹敵するサイズ。現時点では明らかにされていないものの、現行型ファントムでデビューしたアーキテクチャー・オブ・ラグジュアリーが採用されているのは間違いなく、したがってボディ構造はアルミスペースフレームと考えられる。

エンジンもほかのロールス・ロイスと同じ排気量6.75リッターのV型12気筒ガソリンツインターボだろう。ただし、ボディはほぼ全面的に作り直されており、合計で1813ものパーツを新設計したという。

優雅な曲線を描くルーフはいわゆるデタッチャブル式で、出かけるときはオープンかクローズドかの二者択一となる。このため、外出先で雨に降られたときの備えとして、トノーと呼ばれる簡易な雨よけが付属する。ちなみに、ボートテイルはその構想から完成までに4年を要したそうだ。

価格は明かされていない。

発表されたボートテイルはオーナーの好みにより明るいブルーにペイントされているが、ボンネットはおなじブルーでもキャビン側が明るく、フロントエンドにいくに従ってブルーが濃くなるグラデーション塗装だ。ちなみにボンネットのグラデーション・ペイントは、このボートテイルがロールス・ロイスでは初めてという。

冒頭でも述べたとおり、このボートテイルは合計で3台だけが生産される。この計画が立ち上がった当初、3名の上顧客がボートにちなんだコーチビルディングの製作を希望しており、彼らの要望が互いに極めて近かったことから3台のボートテイルが世に送り出されることになった模様。残る2台のスタイリングはまだ公開されていないが、それぞれのオーナーの好みが反映されて、ここに紹介したボートテイルとは大きく異なる仕様で仕上げられている可能性も十分に考えられる。

残る2台のスタイリングはまだ公開されていない。

© benedict campbell

ここまで読み進んでくださった皆さんは、おそらくこのボートテイルの価格にも興味をお持ちのことだろう。ただし、残念ながら現時点でボートテイルの価格は公表されていない。

ちなみに、2017年に1台だけが製作されたスウェプトテイルはおよそ14億円だったので、3台が作られるボートテイルはそれより「いくぶん安い」と考えるのが自然だろう。

文・大谷達也

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